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堤未果『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命―なぜあの国にまだ希望があるのか』(海鳴社)

報道が教えてくれないアメリカ弱者革命―なぜあの国にまだ希望があるのか

報道が教えてくれないアメリカ弱者革命―なぜあの国にまだ希望があるのか

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)』が良かったので読んでみた。一冊読んでいいと思うと、すぐに同じ著者の本や類書を買い込む悪癖が、私にはある。
政府の政策に起因する貧富の差の拡大→貧困層の若者が希望を求めて軍隊を志願する→軍隊に入ればなんとかなるという幻想は現実によって手ひどく裏切られ、重いPTSDを抱えて帰国する若者が激増し、社会問題になりつつある…というアメリカ社会の現状分析は、前著と共通している。
前半三分の一は、ブッシュ政権の導入した電子式投票機械による投票制度の危険性を訴えるため、ハンガーストライキを行いながら全米を旅するジョンという四十一歳の白人男性との、奇妙な同行日記である。
ジョンはマハトマ・ガンジーを尊敬しているという以外は、とりたてて政治活動の前歴もない、大学時代はアメフトに熱中し卒業後は日本で留学斡旋ビジネスに携わっていた人物である。そういう人物が、「紙の記録を残さない」「内部は選挙管理委員会の人間に対してさえ非公開」「製造会社のCEOは熱心な共和党支持者」という電子式投票機械の導入に「公正な選挙が脅かされる」という危機感を抱くと、職を投げ打って帰国し、市民運動に身を投じたのである。
市民運動といっても、ハンストを行いながら地域の集会に出席したり戸別訪問をしたりして投票制度の危険性を訴えるという、いかにも素人臭いものである。しかしそういうことを実践してしまう人物がいるということが、すごい!(今の自分にできるかそんなことが?)
だがもっとすごいのは、そのジョンと著者が直面するアメリカという国の現実である。
市民運動に携わっていると知られると、投宿したホテルの部屋に残した荷物を勝手に引っ掻き回され、さらには警官によって理不尽な暴力を受けたうえホテルから叩き出される(p33〜)。
フロリダの保守的な田舎町で参加した集会では、地元の牧師が、同性愛者や中絶する女性の追放、「テロリスト」から国を守ること、「強いアメリカ」と「モラルの回復」を訴えて拍手喝采を浴びている。その牧師に、子どもたちが公立学校でダーウィンの進化論を教えられていることを怯えた様子で訴える中年女性がいたりする(本書p49によるとアメリカでは国民の41%が進化論より創造論を信じているという)。
ブッシュ大統領の政策を外側から批判するのは容易だが、アメリカ国内では、ブッシュの「聖書の教えに従って保守的なアメリカの伝統を取り戻そう」というメッセージを熱狂的に支持する分厚い層が存在するのだ。著者は、共和党支持のクリスチャンは「ブッシュを崇拝してる」(p60)とまで表現している。
そういった保守的なコミュニティで、たまたまゲイに生まれついてしまった男性と、著者は偶然言葉を交わす。彼は著者がかつてアムネスティに在籍したという経歴を知ると、自分がゲイであると告白し、そのことが周囲に知れ渡りそうで、もしそうなったら自分はこの町にいられない、という意味のことを告げる…(p50〜)
いい加減長くなってしまったけど、これでもまだ前半1/3で、この本のほんとうにすさまじいのは、後半2/3の、米軍のリクルーター(新兵募集員)が、アメリカの貧しい層の高校生を、「入隊すれば軍が大学の費用を出してくれる」などと言葉巧みに誘ってイラクやアフガニスタンに送り込むまでの様子のレポートや、たまたま運良く無事に派遣期間を終えて帰国できたにもかかわらず、例外なく重いPTSDに悩むようになり、ホームレスになったり満足に働けなくなったりしている帰還兵たちのインタビューなのだが、これはまた機会があれば。
ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)