しいたげられたしいたけ

空気を読まない。他人に空気を読むことを要求しない

地域労組の団体交渉に参加したら初動を誤らなかった相手は手強かった

非正規労働者向けの地域ユニオンに加入していることを何度か書いている。やってることは、月一回の例会に出席するほかには、ごくたまに 雇い止め撤回裁判の傍聴 に行ったくらいだが。あと団交には過去に一度だけ参加したことがあった。交渉事は数が勝負のようなところもある。都合がついたので参加したのだった。

www.watto.nagoya

先月、非組合員の方から労働相談があった。相談者は定年が近い非正規労働者で、勤務先の就労規則には「雇用契約は1年ごとだが、原則60歳を超えて更新されない。ただし事情があれば最大5年までの定年延長を認める」という概要の規定があるとのことだった。

それが、相談者の話によると、職場で「戦争反対」とか「平和が大事だ」みたいなことを発言したところ、30代くらいの労務担当者がネトウヨみたいなやつだったそうで、「相談主さんはもうお年なので健康的に大変でしょうから、雇用契約は更新しなくていいですね」みたいなことを言われたのだそうだ。

相談者が収まるわけがない。提訴も検討したが、まずはうちのユニオンに相談に来たという次第だった。

思うに、政治的主張で解雇というのは論外中の論外、日本国憲法で保障された「良心の自由」の侵害に他ならない(現実として、えげつない事例はいくらでもあるが、ひとまず措くとして)。それ以外にも、本人の事情を考慮せず一概に「定年に近いから」と判断することは、google:エイジハラスメント 以外の何物でもないのだ。すなわち出生地、人種、国籍、性別、宗教など、本人の意思で変更できない、または変更が困難な属性に基づいて、本人に不利益な扱いを与えることが「差別」である。定年というリミットを設けることは社会的に広く認められているが、一旦「定年に近いから」という主観でそれを捻じ曲げたとたん、「ハラスメント」となり「差別」となる。

ネットで検索すると、エイジハラスメントに基づく裁判事例は、いくつも出てくる。武井咲主演のドラマのヒットも多いけど。後日その旨を相談者に直接話したところ、「エイジハラスメント」という言葉は知らなかったが、としながらも、我が意を得たり、のような反応をしてくれた。

その他、ユニオンの執行委員が言うには、就労規則の「60歳を超えない」という表現が微妙とのことだった。字義通り取ればイコールを含まない。相談者は58歳で現在の契約中に59歳の誕生日を迎えるそうだから、最低あと2年の契約更新の可能性がある。だがイコールを含むと解釈して、あと1年と言ってくる可能性が高いとのことだった。確かにそんな気がした。

ユニオンから相談者の勤務先に申し入れ、団交を行うことになった。

スポンサーリンク

 

前回の2016年9月のときもそうだったが、出席者は会社側のほうがずっと多かった。個人ブログでもこういうことを書くと、地域ユニオンというものが舐められることになりかねないという気もするが、今どきの労働運動、組合運動というものの低調さは、覆うべくもないであろう。

会社側は、まず労務担当の発言の不適切さを認め、謝罪してきた。

その上で、定年の60歳を迎える以前の1年間の雇用の継続を認めてきた。

ただし最大5年までの定年延長は、相談者には認められないとのことだった。

また「60歳を超えない」には「イコール」を含む、すなわち雇用継続は1年限りというのが会社側の見解とのことだった。

何と言うか、すでにタイトルに書いた通り、手強いと感じた。交渉はもっぱら執行部の人が行い、私はずっと聞き役だったが、ユニオン側が何を言っても、上記の会社側の提示からは一歩も譲らないという態度だった。「初動を誤らなかった」というやつであろうか? ユニオン側が少しでも相談者に有利な条件を引き出そうとすると、そのたび「それは最初に謝罪しました通り…」とかわされてしまった。

結局、会社側が提示した1年のみの雇用継続を受け入れるか、交渉決裂かの2択しかないようだった。交渉決裂とは、この場合、退職だろう。

相談者とユニオン側は一旦席を外して打ち合わせ、会社側の提示を呑むしかなかろうということで同意することになった。

   *       *       *

団交後、相談者とユニオンでささやかな慰労会を開いた。その席で相談者は、同意内容はそんなものだろうと覚悟していたが、労務担当の態度だけは怒りが収まらないと話していた。言わなかったけど、その怒りに見合うだけの慰謝料代わりになるような有利な条件を引き出す力は、地域ユニオンにはなかったのだと思う。もしネットに散見される組合悪玉論者が、言葉は悪いが「焼け太り」とか「ゴネ得」のようなものがあるだろうと想像するのであれば、それは幻想だと断言できる。それでもユニオンは、ないよりあったほうが絶対にいいと思うのだが。だから参加している。

例として適切かどうかはわからないが、大阪の府立高校で、生まれつき茶髪の生徒に髪染めを強要し裁判沙汰になった事件を想起した。あれは外目には、明らかに高校と府教育委員会が初動を誤ったとしか思えない。無理筋を押し切ろうとしたのだろう。今回の場合、会社側が何か初動を誤って、とんでもないスカタンな主張でもしてくれば、それこそ提訴して、メディアにも情報を持ち込んで(新聞社はこちらから連絡すると取材してくれることがある ことは、弊ブログで一、二度書いたことがある)、炎上ということがあり得たかも知れない。

だがそういう状況が、相談者にとって幸運だったとも思えない。ニュースで流れるような裁判沙汰において、よしんば勝訴して慰謝料などを獲得できたとしても、それを勝ち取るために支払った労力は、絶対に慰謝料の額に見合うものではないのだ。

追記:

白いケモノ(id:houyhnhm)さんより言及いただきました。ありがとうございます。今回の拙ブログで手薄だった(というよりノーガードだった)法律関係について、まとめてありました。感謝しつつリンクを貼らせていだだきます。

abyss.hatenablog.jp