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モートン・D・デービス『ゲームの理論入門』(講談社ブルーバックス)

ゲームの理論入門―チェスから核戦略まで (ブルーバックス)

ゲームの理論入門―チェスから核戦略まで (ブルーバックス)

先般読んだ『囚人のジレンマ―フォン・ノイマンとゲームの理論』に(ゲーム理論の紹介書としては)不満が残ったので、読んでみた。「ゲーム理論に何ができるのか」ということに関しては、こちらの方が記述が多い。例えばこんなこともできるのだという。

五人の容疑者が、あるビルの地下室にひそかに集まっている。外では一味の首領を尾行するように命令を受けた警官が、彼らの解散を待ち受けている。警官は、首領が一味の中で最も背の高いことを知っている。そしてこれが、一味の中から首領を見分ける唯一の手掛かりである。
 大事をとって一味は一人ずつ立ち去る。一人が去ってから次が出て行くまで十分に間をおいているので、次の者を待っていると前の者を尾行できなくなる。容疑者達がランダムな順序で立ち去るとしたら、警官にとって最良の戦略は何であろうか?彼が最良の戦略をとるとすると、尾行する人物が首領である確率はどれだけであろうか?
《中略》
この場合の警官の最良の戦略は、最初の二人を見送り、残りの三人のうちで見送った二人よりも背の高い最初の男を尾行することである。もし、残りの三人のいずれもすでに見送った二人より背が高くなげれば、首領は逃げおおせたことになる。警官がこの線に沿って行動すると、理由はここでは述べないが、目的の男を尾行できる割合は約四○パーセントである。
 意外なことに、地下室に何人集まっていても、集まった人数があらかじめ正確にわかっていれば、警官は約四○パーセントの割合で首領を見つけ出すことができるのである。いま述べたように、彼は最初(近似的に)四○パーセントの人数を見送り、残りの六○パーセントのうちから、先に見送った連中よりも背の高い最初の人物を尾行すればよい。

(p23〜25)
ゲーム理論は「二人・ゼロサム」(本書ではゼロ和)、「二人・ノンゼロサム」、「n人」などさまざまなものがあって、また「n人」ゲームにもN−M(ノイマン=モルゲンシュテルン)理論、A−M(オーマン=マシューラー)理論、シャプレー値などいくつもの解があるという。「囚人のジレンマ」というのは「二人・ノンゼロサム」に現れる一つの特殊なケースである。
しかし、この本もあまり人には勧められない。とにかく訳文が難解で読みづらいのだ。そう感じるのは私だけではないはずで、その根拠は初版73年で私の手元の本は96年の48刷であるにもかかわらず、p226の図中の記号がOで本文の説明がQという明らかな誤植が直っていない。訳者あとがきには「一般に、数学で簡潔によく表現される内容を日常の言葉で再現するには、およそ十数倍もの筆舌を費やさなければならない。著者モートン・デービスはこの困難な試みに挑戦し、一応成功したものである」(p293)とあるが、多分成功していないのではないか?

囚人のジレンマ―フォン・ノイマンとゲームの理論

囚人のジレンマ―フォン・ノイマンとゲームの理論