- 作者: 佐々木譲
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2005/11/18
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キューバ革命については、三好徹の『チェ・ゲバラ伝』(文春文庫で読んだが、最近、原書房から新装版が出ているそうだ)などで知ってるつもりになっていたのだが、視点が違うとものの見え方も違うのである。例えば、25歳の新進弁護士であったカストロが、クーデターで成立したバティスタ政権に反逆して、スポーツライフルと散弾銃で武装したわずか100名ほどの同志を率いてキューバ第二の基地を襲撃した「モンカダ兵営襲撃事件」には、当然ながらゲバラは参加していない。
中南米諸国には「マチスモ」と呼ばれる価値観というか倫理観があることを、著者はいくどか強調する。「マッチョイズム」と和製英語ふうに翻訳するとわかったような気分になるが、「体を張ること」「危険に身を晒すこと」が称えられる風土なのだという(なおマチスモについては大平健『貧困の精神病理―ペルー社会とマチスタ (同時代ライブラリー (254))』という本が出ている)。ただし日本で言う「男らしさ」とは違って、「マチスモ」はどうやら「寡黙」を求めないらしく、カストロはとにかく能弁で、あらゆる機会をとらえてあらゆる相手に長広舌をぶつ。
定員10名(!)のヨット「グランマ号」に、ゲバラを含む80人の同志とともに乗り組んでキューバに再上陸したカストロは、シエラ・マエストラ山脈を根城に、十四個大隊一万名の陸軍とさらに空・海軍まで動員するバティスタ政権を相手に、結局勝っちまうのである。北方謙三はこの話をもとに『水滸伝』を書いたそうである(未読。そのうち読もうっと)。
これが物語であれば血沸き肉踊るような話であるが、現実として敵味方が銃弾に次々と倒れる情景を想像すると胸がつぶれる。そして何よりの難事は、革命を起こすことより革命を維持することで、革命政権成立後、アメリカの干渉を押し切って農地改革を実現するため、心ならずもソ連と手を結び、結果ミサイル危機に至る経緯は、ページをめくる指までが重くなるような気分を感じる。
そう、これが不思議なんだわ。中南米の左翼勢力や革命政権に共通する悲願は「農地改革」=「大土地所有制からの脱却」と「民族資本の育成」=「宗主国型資本からの脱却」つまるところ「植民地型被支配構造からの脱却」。それさえ実現すれば、ソ連もマルクス・レーニン主義もどーでもよかったんだと思う。ところがアメリカは、いつもそれに対してとことん不寛容で、例えばグアテマラに成立したアルペンス政権が農地改革を進め、米国資本のユナイテッド・フルーツが所有する農地を接取しようとして、アメリカが公然と支援する傭兵部隊によって'54年に打倒された経緯が、本書p173〜175に記述されている。本書には書かれていないが、似た例として'73年にクーデターで倒されたチリのアジェンデ政権、内戦の末'80年に下野したニカラグアのサンディニスタ政権などがすぐに思い浮かぶ。
一方でわが日本においては、農地改革は米軍占領下でGHQの主導により実現している。それも地主階級のさしたる抵抗もなしに。
なんでだ??
(いや、これも若干の保留が必要で、『最後のアジアパー伝 文庫版』の最後の2章は沖縄の話が扱われているが、現在の沖縄における米軍による広大な基地用地の接取と本土資本支配は、見掛けこそ違え「植民地型被支配構造」となんら変わるところはないのではないか?県民の立場からしたら同じことなのではないか?)
貧困の精神病理―ペルー社会とマチスタ (同時代ライブラリー (254))
- 作者: 大平健
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