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井筒俊彦『イスラーム文化 その根柢にあるもの』(岩波文庫)

イスラーム文化−その根柢にあるもの (岩波文庫)

イスラーム文化−その根柢にあるもの (岩波文庫)

同じ著者の『イスラーム生誕 (中公文庫BIBLIO)』がわかりやすかった(ただし5/5付で書いた通り、漢字が難しかったことと、テーマそのものの難解さを保留として)ので、こちらも読んでみた。
石坂記念財団主催の財界人向け講演録をまとめたもので、さらに読みやすくはあった。今回はめちゃくちゃ難解な漢字は出てこなかったし。しかし、例の核心部分は、やはりわからないままであった。「イスラーム」とは「絶対依嘱」(p64)、「神と人との人格関係は、あくまで主人と奴隷との関係」(p62)、それはわかる。では、その主人たる「神」はどこにいて、どのように「奴隷」たる我々に命令を下されるのか?
しかもその「神」があくまで形而上的存在に留まってくれればまだしも、「聖俗をまったく区別しない」(p48)すなわち聖職者が世俗の権力までも独占するイスラーム社会にあっては「いったん異端を宣告されたが最後、その人、あるいはそのグループは完全にイスラーム共同体から締め出されてしまう」「「イスラームの敵」になったものの刑は死刑、全財産没収」(いずれもp49)ということだそうだ。
また、「神の全能」を強調するあまり、因果律までもが否定されるとか、人間の自由意志が完全に否定されてしまうとかといった大問題が、著者から未解決のまま提示されたりする。

因果律というものを認めますと、それだけ神の創造能力が減ることになる。事物がそれぞれ自分なりに働けることになるからです。とにかく事物に自分自身の力があって、それが独立に動くものであれば、神は無条件的に全能ではありませんし、世界は神の絶対自由空間ではなくなってしまうのです。

(p76)

もし人間がまったく無力で、自由意志を欠くものであるなら、そんな人間が悪を為し罪を犯すのも彼の責任ではなく、すべては神の責任になってしまうはずだからであります。自分では全然悪を為す能力がない人間に強制的に悪をさせておいて、しかもこれを罰するというのでは、いくら何でもひどすぎる。神の倫理性の根源原理である正義が成り立たない、というのです。

(p77)
思うに本書は、イスラームそのものを理解しようというより、イスラームを信仰する人々と理解し合えることを目的としたものかも知れない。財界人相手の講演会であることだし。イスラームが提示する謎が深ければ深いほど学究テーマとしての魅力も大きいであろうことは、おいといて(そんなことは私や多くの一般読者の手に負えるしろものではなかろう)。
だいたい私は、自分にとってもっと身近な宗教であるところの、仏教や神道すら、ちょっと調べ始めてみると自分がなにもわかっていなかったことに驚いているところなのだ。もしかしたらイスラーム圏の多くの人々も、あんがい無自覚のままコーランを読誦したり祈りを捧げたりしているのかも知れない。わからないけど。
後半のほうの「イスラーム神秘主義」も、全然知らない世界が広がっていて、面白かったです。

イスラーム生誕 (中公文庫BIBLIO)

イスラーム生誕 (中公文庫BIBLIO)