🍉しいたげられたしいたけ

NO WAR! 戦争反対!Ceasefire Now! 一刻も早い停戦を!

ロバート・B・チャルディーニ、(訳)社会行動研究会 『影響力の武器[第二版]』(誠信書房)

今年、最大の収穫かも知れない。商売をやっている人間にとっては、読むのが遅すぎたくらいだろうか? 文句なしの自分的五つ星。
訳者あとがきによると、著者は「米国を代表する社会心理学者の一人」。各章の末尾に「まとめ」と「設問」がついていて、いかにも大学の教科書風だが、決して読みにくくはない。
本書では、他人を思い通りの行動に誘導するための原理を、「返報性(お返し)」「コミットメントと一貫性」「社会的証明」「好意」「権威」「希少性」の6つに分類して実証してゆく。
例えば第2章で著者は、たまたま路上ですれ違った十二〜三歳のボーイスカウトの少年から、一本1ドルのチョコバーを2本売りつけられた自分を発見して、愕然とする(p65)。なんとならば著者は(1)チョコバーが好きではなく、(2)お金は好きである、(3)にもかかわらず著者は2本のチョコバーを持ち、少年は2ドルを持って立ち去っている。
実はボーイスカウトの少年は、著者と出会ったとき最初に5ドルのチケットを売りつけようとしたのだ。
それを断ると「じゃ、チョコバーを買ってくれませんか?」と持ちかけたのだそうだ。
著者は、最初の譲歩が承諾を導くのに効果的なテクニックであるという仮説を立て、「拒否したら譲歩」法と名前をつけ、この仮説が本当に有効なのかどうか、さまざまなテストを考案し実行する。
すなわち一例として、キャンパスを歩いている学生を呼び止め、「非行少年を動物園に引率するボランティアをやってくれないか?」と頼んで断られる割合と、「二年間にわたり非行少年の週に一度のカウンセラーをやってくれないか?」と頼んでから、それではと動物園への引率を依頼した場合の断られる割合を比較したら、なんと三倍もの差が出たのだそうだ(p71)。
この手の「実証主義」が、時として研究の自由度の幅を狭める嫌いのあることは、確かid:lessorさんの日記で読んだ記憶があるが(検索したら見つかったので貼らせてもらおう http://d.hatena.ne.jp/lessor/20080109 )、それにしても「実証できるものは実証する」「数値化できるものは数値化する」「直接、検証していないものは文献を示す」という態度は、いい意味でのアカデミックなものを感じさせる。少なくとも「日教組の強いところは学力が低い」と主張して、日教組の組織率と全国学力調査の結果に目立った相関がないことが指摘されると「組織率が高いと言ったんじゃない、強いと言ったんだ」と、いかにも実証も数値化も困難そうな強弁を繰り返したどっかの元大臣よりは、はるかに信頼できる。
こうした「仮説」と「検証」が、各章ごとに5〜10ずつ出てくる。
なにより怖いなと思ったのは、我々はこの手の原理やテクニックが自分に与える影響力を、明らかに過小評価する傾向があるという著者の主張である。そう言えば思い当たることはいくらでもある。例えばだけど、8/58/6の日記に、携帯ショップで「0円表示」だとか「抱き合わせ販売」だとか、次々と不明朗な仕打ちを受けたことを書いた。ショップにいる時点でその理不尽さには気づいていたつもりなのだが、どうして私は席を立たなかったのだろう?本書の理論によると、きれいに説明がついてしまう。
まず私はPHSの解約を頼んだ。つまり最初に恩に着てしまった。これは本書で言うところの「返報性」すなわち早い話がギブアンドテイクの原則で、他の本で読んだことがあるのだが「文化人類学の重力則」と呼ばれるほど強力なものなのだそうだ。
それから「このサービスは断れないので不要だったら一ヵ月後に解約してください」と言われたのは、申込書にサインして、電話番号も発行された後になってからだった。だから断りようがなかった。これは「コミットメント」つまり「乗りかかった船」原則である。いや本書には「乗りかかった船」とは書いてないけど。
それから「権威」というのは…あ〜、やめだやめだ!思い出すとどんどん余計に腹が立ってくる!かように我々は(私だけ?)相手の手にやすやすと乗ってしまうのである。これが商売だけだったらまだいいが、政治とか宗教とか、あらゆる局面で「他人を思い通りにコントロールしよう」と試みている輩はいるんだろうな。
かくいう私も、自分の商売に即座に応用できそうなテクニックに付箋をはさんでおこうとしているのは、ここだけの内緒である。
追記:(9/29)
こいつらも、その手のテク使いまくってるなぁ…
「【撲滅 振り込め詐欺】(上)手口を変えて増殖、被害は1日1億円」
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/080927/crm0809271907017-n1.htm
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