暫定目次 各「その1」のみ クリックで詳細表示
(13) 第3景【鎌倉編】馬借・欠七(1/2)
(15) 第4景【現代編】個室病棟にて(1/2)
(17) 第5景【鎌倉編】ボクの無双(1/2)
(19) 第6景【鎌倉編】被差別集落(1/4)
(23) 第7景【鎌倉編】霊感商法(その1)
新着お目汚しを避けるため、日付をさかのぼって公開しています。体裁にこだわらず頭の中にあるものをダンブしている、という意味です。 あとからどんどん手を入れる予定です。前回はこちら。
裵「道大くんは、哲学専攻だっけ?」
真琴「いえ、ぜんぜん畑違いの理工学部です」
裵「真琴さんとは文学部の同窓かと思ったのだが」
真琴「同じサークルだったんです。"幻想文学研究会" という」
裵「トールキンの『指輪物語』とか、ルイスの『ナルニア国物語』とか、ル=グウィンの『ゲド戦記』とか、ローリングの『ハリー・ポッター』とか…?」
真琴「さすがと言うか、よくとっさに、すらすらと出てきますね」
裵「それともクトゥルフ神話方面とか?」
真琴「そんなじゃありませんよ。新造の部室もないサークルで、空き教室のかわりにカラオケボックスで例会を開くこともしばしばの、ゆるい集まりだったんです。私はそれが居心地よくて出入りするようになったんですけど、ヘンな奴がいて、例会で発表を担当するたびに "物語の構造分析をする" とか何とか言って、分厚いレジュメを作って持ってきては、浮きまくっていたんです」
裵「構造分析か…"藤子・F・不二雄の作品は、異世界から来た友だちが主人公にかりそめの特権を与えると分析できてしまう” と、何度聞かされたことやら」
真琴「デスクもそれ聞きました?」
伊佐子「私も聞かされたくらいですから」
真琴「恥ずかしい奴…私がサークルに入って最初に聞かされたのは "井上ひさしの諸作品に登場する『友だち』のパターン分析" でした」
裵「それは知らないな」
真琴「(問わず語り風に) 若気の至りというか気の迷いで、ちょっと好きになってやったんですよ」
真琴の回想の中で、18歳の真琴が19歳の道大に対して、緊張した面持ちでピンクのふわふわしたハートを一つ飛ばす。18歳の真琴はストレートのショートカット、現在の真琴は少しウエーブした髪型。道大は真琴に気づいて真琴のほうに視線を向ける。19歳の道大は、現在の道大よりもっとボサボサの髪型である。
真琴「そうしたら、こいつったら10倍くらいの "好き" を返してくるじゃないですか!」
回想の中で、道大は座った目をして真琴にパステルカラーの水色のハートを大量に飛ばす。真琴はびっくりした表情。
真琴「ああ、こいつモテたことなかったんだ、と思ったんです。でも、もうちょっとだけ好きになってやったんです」
回想の中の真琴、少し微笑んでピンクのハートを2つ道大に飛ばす。
真琴「そうしたら今度は、20倍くらいの "好き" を返してくるじゃないですか!」
回想の中で道大、水色のハートを大量に飛ばし、真琴はその中に埋もれる。
真琴「面倒くさいことになっちゃったとは思ったけど、結婚してほしいというから結婚してやったんです。
子どもが欲しいというから、子どもを産んでやったんです。
そうしたら、出てきた子どもが冗談みたいにダンナそっくりで…」
伊佐子「ここからいつも、呼び方が "ダンナ" に変わるんですよ」
裵「よく聞かされるんすか?」
伊佐子「母親は娘ののろけを聞く係です」
真琴「あれ、もうコピーです! クローンです!
私もう可愛くて可愛くて可愛くて、ダンナなんかどうでもよくなって、息子にかかりきりになっちゃったんです。
そうしたらダンナったら、もちろん息子も可愛いって言うんですけど、息子に夢中になってる私も可愛いって…」
裵・伊佐子「…」
真琴「"尊い" とまで言うんですよ。
それで私、回復して早々 "もっと産んでやる!"
"今度は私そっくりの可愛い女の子を産んでやる!"
"繁殖してやる!" となっちゃって…」
伊佐子「微妙に自己愛入ってますが、堪忍してやってください」
裵「ええ、大丈夫です」
真琴「バカですよね、年子なんか産んだら手間が倍じゃすまないって、産む前からわかっていたのに。
実際、新生児と1歳児が一つ屋根の下にいる家ときたら…
ダンナと、母と、ダンナのご両親がいなかったら、どうなっていたことやら」
裵・伊佐子「…」
真琴「でも年子を産まなかったら聡己と結衣に会えなかったんだなと、折につけ思うんです。
やっぱりあれでよかったとしか、思えないんですよ」
真琴、道大の寝顔を、じっと見つめる。
(この項続く)
追記:
続きです。
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