暫定目次 各「その1」のみ クリックで詳細表示
(13) 第3景【鎌倉編】馬借・欠七(1/2)
(15) 第4景【現代編】個室病棟にて(1/2)
(17) 第5景【鎌倉編】ボクの無双(1/2: 本稿)
(19) 第6景【鎌倉編】被差別集落(1/4)
(23) 第7景【鎌倉編】霊感商法(その1)
新着お目汚しを避けるため、日付をさかのぼって公開しています。体裁にこだわらず頭の中にあるものをダンブしている、という意味です。 あとからどんどん手を入れる予定です。前回はこちら。
紫雲寺の本堂内。夜なので、油皿の灯火があちこちに燃やされている。
主人公「ボク」は、本尊を背に正面に座っている。
堂内には、周辺に住む農民たちが、いっぱいに詰めかけている。
以下、主人公「ボク」の語り。
こんばんは。今夜もこんなに大勢の方に来ていただいて、ありがとうございます。
今夜は『阿闍世王授決経』というお経から、有名な「貧者の一灯」というお話をさせていただきます。
お釈迦さまがこの世にいらした時代のインドには、阿闍世〔あじゃせ〕王という強い王さまがいました。
この王さまは父親を殺し母親を幽閉して王位を奪った極悪人だったのですが、お釈迦さまの教えを受けて深く反省し、仏教に帰依するようになりました。そして教団の守護者になりました。そのてんまつは、今後少しずつお話させていただきます。
ある日、阿闍世王はお釈迦さまとお弟子さんたちを王宮に招いて、精進料理で接待しました。一緒に招かれたお弟子さんは、知恵第一と言われる舎利弗〔しゃりほつ〕、神通第一すなわち超能力の一番の使い手と言われる目犍連〔もっけんれん〕ら、そうそうたる面々でした。お釈迦さまはお返しに、ありがたい法を説いて聞かせたので、王さまと大臣たちは深く感動したそうです。
お釈迦さま一行を祇園精舎に送ったあと、阿闍世王はもっとも信頼する大臣の祇婆〔ぎば〕に相談しました「今日、私は釈尊に飲食を饗応したが、次は何を布施したらよいだろう?」
祇婆大臣は答えました「灯明がよろしいでしょう」
そこで王さまは、100石の麻油をロバの背に乗せ、宮門から祇園精舎まで届けさせました。
その様子は、多くのインド国民の目に入りました。
ロバの隊列を見ていた群衆の中に、一人の貧しい老女がいました。老女は以前から、自分もお釈迦さまにお布施をしたいと思っていたのですが、その余裕がありませんでした。
ですが、それではいつまでもお布施ができません。そこでこのきっかけに一念発起し、乞食をして二銭のお金を得ました。
どうか誤解しないでください。古代インドで乞食というのは、決して恥ずべき行為ではありませんでした。『金剛般若経』という有名なお経は、開巻一番、お釈迦さまが乞食をして食を得る場面から始まっています。乞食という言葉に語弊があるなら、托鉢と言い換えても構いません。古代インドではそのように、聖者に寄進し貧しい者同士が助け合う習慣があったのです。
だが二銭というお金はやはり、いかにも少なかったようです。老女がそのお金を持って油屋に行ったところ、いくばくの灯油も買えませんでした。
油屋の主人は言いました。「あなたはこんなに貧窮しているのに、せっかくもらった二銭でなぜ食べ物を買って命をつながず、灯油を買おうとするのですか?」
老女は言いました「お釈迦さまと同じ時代に生を受けられるのは、百劫に一度と聞いています。私はそのような幸運を得ながら、供養する機会がありませんでした。今日、王さまが大変な功徳をなされるのを見て、貧窮の中にあっても、後生のため一灯なりとも施したいと決意したのです」
そのまごころに打たれた店主は、二銭で買える油二合に、特別に三合をサービスして合計五合を売ってくれました。
老女は祇園精舎に行き、買った油に灯火を点しました。内心、この油では半夜も持たないだろうと思いました。だがもし私が後世において成仏できるなら、この明かりが夜通し消えませんようにと願をかけ、立ち去りました。
阿闍世王の献じた油にともした灯明は、消えたり燃え尽きたりしました。しかし老女の献じた明かりは、ひときわ明るく輝き、夜通し消えませんでした。不思議なことに、油も翌朝まで尽きませんでした。
翌朝、老女は挨拶をしにふたたび祇園精舎にやって来ました。
お釈迦さまは、お弟子さんたちに、もう明るくなったので燃え残った明かりを消すよう命じているところでした。明かりはみな消えましたが、老女の献じた明かりだけは決して消えませんでした。袈裟であおいでもますます明るくなるばかり。目犍連は神通力で猛烈な風を起こしてみたのですが、灯明は逆にさらに激しく燃えあがり、上は梵天を照らし、下は三千世界をすみずみまで明るく照らしました。
お釈迦さまは目犍連に言いました。「もうお止しなさい。この明かりは仏の光明功徳によるもので、神通力で消せるものではありません。この女性はすでに過去生において180億の仏を供養し、人民を教え導く徳を積んできたのですが、布施だけは修行する機会がなく、ゆえに今生では貧窮して財宝がないだけです。三十劫の未来において、功徳が満ち成仏した折には、この女性は須弥燈光如来という名の仏になり、そのしろしめす世界では太陽も月もなくても人民はみな身中から光を発し、宮室は忉利天〔とうりてん〕のように宝石の光明が相照らしていることでしょう」
これは授決あるいは授記と呼ばれる、将来生において成仏するという予言に他なりません!
これを聞いた老女は、歓喜のあまり体が軽くなり、地上から虚空に百八十丈も跳び上がり、地上に戻るとお釈迦さまの足元に頭をつける礼をして立ち去りました。
いまだあかあかと燃え続ける灯明を前に、舎利弗と目犍連が相談しています。
舎利弗「これ、どうするんだ?」
目犍連「さぁ…?」
(この項つづく)
※ リアル作者注。
元ネタの原文・出典などは、この拙過去記事中に書いてあります。
追記:
続きです。
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