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宮沢章夫『『資本論』も読む』(WAVE出版)

『資本論』も読む

『資本論』も読む

著者は劇作家だが、高校時代から『資本論』を読破したいと思っていたという。実は私も、『資本論』は『純粋理性批判』『存在と時間』と並んで、死ぬまでに読みたいと思いながら何度も挫折を繰り返している(いらんことだが、三冊とも原文はドイツ語なんだよね。さらに言うならゲーデルの不完全性定理もアインシュタインの相対性理論も原論文はドイツ語。改めて考えると、ものすごい言語だ)。
読みたいと思うんだったら自分で格闘するしかないんだけど、ついつい他人の書いた本に手が伸びてしまうところが私の軟弱さである。
とは言うものの、オリジナルは、翻訳とは言え、読めねーもんは読めねーのである。例えばほんの一例だが、本書p136より引用。前半のカギカッコ内は大月文庫版のオリジナル、後半が著者によるその解釈である。

「交換過程が諸商品を、それらが非使用価値であるところの手から、それらが使用価値であるところの手に移すかぎりでは、この過程は社会的物質代謝である。ある有用な労働様式の生産物が、他の有用な労働様式の生産物と入れ替わるのである。ひとたび、使用価値として役だつ場所に達すれば、商品は、商品交換の部面から消費の部面に落ちる。ここでわれわれが関心をもつのは、前のほうの部面だけである。そこで、われわれは全過程を形態の面から、つまり、社会的物質代謝を媒介する諸商品の形態変換または変態だけを、考察しなければならない」
 しかしこれを理解しようと思うと、たとえば「ここでわれわれが関心をもつのは、前のほうの部面だけである」の、「前のほう」がどのことを指すのかぱっと理解できない文法上の困難で、そこでちょっとひっかかり、ややあってそれが、「商品交換の部面」と「消費の部面」を対立させ、「関心」が向けられるのが「商品交換の部面」だとわかるわけだが、だからといってそれがなぜ、「社会的物質代謝を媒介する諸商品の形態変換または変態だけを、考察しなければならない」ことになるかすんなり理解できるわけでもない。

分量的にはほぼ同じなのに、前半はまるっきり頭に入らないのに後半は書いてあることがすんなり理解できる。これが同じ日本語かと不思議に思うぐらいである。
ただし著者は繰り返し「自分は学者でも研究者でもない」という意味のことを述べているだけあって、首をかしげざるを得ない部分が散見されることも、またいたしかたのないことである。本書p196より。

「私が一○○ポンド・スターリングで二○○○ポンドの綿花を買い、その二○○○ポンドの綿花を再び一一○ポンド・スターリングで売るとすれば、結局、私は一○○ポンド・スターリングを一一○ポンド・スターリングと、貨幣を貨幣と交換したわけである」
 なにごとだこれは。ことによると「一○○ポンド・スターリングを一一○ポンド・スターリングに交換してくれるものすごく親切な人」がいるのかもしれないが、ふつうそんなことは考えられない。「買う商品をまちがえる」をゼロにするならまだしも、プラスにしてくれる者などいるだろうか。
「これ百円で買ったんだけど、買うものまちがえちゃってさあ、だれか、頼むから百十円で買ってくれないか」
 そんなことを言う大ばかものは、ことにしたらいるかもしれないが、「いいよ、買うよ、ほら百十円」と金を出す人間はまずいないと私は考える。なぜなら損だからだ。だが、マルクスはそのことを書いている。ここに「資本」というやつの謎がひそんでいるらしい。

あの〜、これは小売業者が問屋から商品を仕入れてきて客に売る、ありきたりの商行為のことではないでしょうか?
いやだがこんな瑕疵を探してケチをつけるのがアンフェアもはなはだしいことは百も承知。つか私の読書態度自体が間違っていることは、気づいているつもりなのだ。「人生において必要なことは本には書いてない」と言うのは簡単だが、人生において必要なことを本に求めるとするならば、例えば『カントの人間学 (講談社現代新書)』を読む代わりに、カントの原著作せめてその翻訳と自ら格闘するべきであろう。『ラテン語の世界―ローマが残した無限の遺産 (中公新書)』を読む代わりに、ラテン語の学習帳を買ってきて徹底的にラテン語のマスターを目指すべきであろう。『他人を見下す若者たち (講談社現代新書)』を読む代わりに、自ら仮説を立てその仮説を実証するための尺度を作成し調査を行うべきであろう。ううむ…
追記:(3/28)
本書p104に、野坂昭如の『マッチ売りの少女』という短編小説の話題が登場する。
今にして思えば、pya!の「2千円〜」(2005-11-28)という投稿の、ピックアップログにあるコメントの元ネタは、これだったのかも知れない(18禁ネタなのでリンクは貼りません。トップの「サイト内検索」に上記タイトルを入力すれば閲覧できます)。