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田中克彦『エスペラント―異端の言語』(岩波新書)

エスペラント―異端の言語 (岩波新書)

エスペラント―異端の言語 (岩波新書)

言語学者がエスペラントの本を書くなんて珍しいな、と思って読んでみたら、言語学者には「言語の起源は、実証の材料をもたず、科学にならないから、言語学の対象にしてはならない」(p4)というのと並んで、人工言語の考案というのは禁じ手の一つなのだそうだ。言われてみれば、まあそりゃそうだろう。エスペラントの考案者であるザメンホフは眼科医だが、本書では他の人工言語の例として、簡略英語(ベーシック・イングリッシュ BASIC)の考案者の心理学者のK・オグテンと文芸評論家のI・リチャーヅであること(p26)、語尾変化抜きラテン語の考案者が数学者のジュセッペ・ペアノ(数学者としては、めちゃくちゃ有名な人です)であること(p37)、ボラピュックの考案者がカトリク牧師(ママ)のシュライヤーであること(p41)などが紹介されている。
エスペラント誕生後も言語学者は概してこの人工言語に対して冷淡または批判的なことが多いのだそうで、著名なサンスクリット学者・仏教学者であるマックス・ミュラーがエスペランチストであった(p123、190他)のは例外に属することらしい(仏教関係の本を読んでると、マックス・ミュラーの名はしょっちゅう出てきます)。著名な英語学者であるイェスペルセンが、ノヴィアル(Novial)というエスペラントの改良案を発表している(p40、88〜91、190〜191他)というのも、やはり例外の部類らしい。ただしこのことによってイェスペルセンは、「分派行動」ということで、いたくエスペランチストたちの恨みを買ったそうであるが。