しいたげられたしいたけ

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薄井雅子『戦争熱症候群―傷つくアメリカ社会』(新日本出版社)

戦争熱症候群―傷つくアメリカ社会

戦争熱症候群―傷つくアメリカ社会

堤未果を何冊か読んで「本当かよこれ?」と少なからぬショックを受け、現代アメリカに関する他の人の著作も読んでみようと思っていたところへ、たまたま新刊広告を見たのをきっかけに、Amazonで発注して読んでみた。
もっとすさまじいことが書いてあった。
九・一一同時多発テロ事件の直後に、ブッシュ政権は「愛国者法」というものを成立させたが、この法律によればアメリカ国籍を持たない移民の身柄拘束や追放がいとも簡単にできるようになると、ロースクールの教授であり弁護士である著者の夫(米国人)は、地元新聞にその危険性を訴える記事を書いたところ、「あんたのようなやつは撃たれればいい」「気分が悪くなる」「あんたのロースクールに行かなくてよかった」などという批判が殺到したという(p20)。
サウス・フロリダ大学教授だったサミー・アル−エリアンは、パレスチナ難民だったというだけの理由で、全くの無実の罪で現に監獄に拘束されたままだという(p60〜)。九・一一事件の二週間後にFOXテレビからサミーに出演依頼が来た。ところがその番組というのは、タイトル自体が「教授かテロリストか」というものであり、筋金入りの右派として知られるホストはサミーに答える間も与えず矢継ぎ早に質問ばかりを浴びせた。番組の直後、彼の勤務する大学には何百本という怒りの電話がかかってきた。
2003年2月、サミーは武装した警官に逮捕され、「パレスチナ人がイスラエル人を殺すための運動をしている」として起訴された。検察側は10年以上にわたってサミーの自宅を盗聴した2万時間に及ぶテープなどを「証拠」として示したが、それらは「イスラエル人を殺している」という疑いとは程遠いもので、地元の人たちで構成される陪審団は「無罪」の評決をくだした。ところが、こともあろうに裁判長が陪審評決を無視し、サミーに罵詈雑言を浴びせた上、法律的テクニックを駆使して刑務所に送りもう一度裁判にかけるという事態になっているという(p64)。
本書には他に、イラク戦争の「英雄」としてマスコミの脚光を浴び、のちに自らその「英雄物語」が虚偽であると証言した当時一九歳の女性兵士=ジェシカ・リンチ上等兵の話(第一章)や、東京裁判とニュルンベルク裁判での「上官の命令に従った」という理由による戦争犯罪の免責は認められないという判決を根拠に、イラク戦の違法性を主張してイラクへの派兵を拒否し軍法会議を争っている日系三世のエーレン・ワタダ中尉の話(第七章)など、日本でも報道された話題も取り上げられている。日本の報道では十分にはわからなかったそれぞれの後日談が読めて、興味深い。