id:taamori1229 さんの、この記事を読んで突如わが数学スイッチが入りました。
<三円定理>
円はそれよりも直径の小さい二つの円で完全に覆い隠すことはできない。
「証明は別途」とありますので、楽しみにお待ちしています。
その直前には「2つではなく、3つでやってみると簡単に覆い隠せることが分かる。」とある。直感的に、確かにそうだろうなと思った。では、どれだけの大きさまでなら覆い隠せるのだろうか?
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具体的には、現在日本で流通している硬貨のサイズは下表の通りである。1円玉三枚で5円玉、10円玉…500円玉を覆い隠すことができるだろうか?
1円 | 5円 | 10円 | 50円 | 100円 | 500円 | |
直径 | 20 | 22 | 23.5 | 21 | 22.6 | 26.5 |
比率 | 1 | 1.1 | 1.175 | 1.05 | 1.13 | 1.325 |
直径の単位はmm、比率は1円玉の直径を1したときのもの。
まずは5円玉。
できた。
10円玉だと、どうだろう?
ちょっと苦しいか? 見る角度を変えると隠れているように見えなくはない。しかし公平にジャッジすると、銅色が見えていると言わざるを得ないのでは?
500円玉。これはどう見ても無理!
そこで数式を使って、1円玉は自分より何%大きい硬貨までなら完全に隠せるか、調べてみようと思った。こういうのを「極値問題」と言って、数学好きはぴくんと反応するのである。
やってみると、大学初年度か、理系の大学入試問題レベルの難度があることがわかった。「私は数式アレルギーの文系でして」という方には(ぉぃ)、途中の数式を飛ばしてグラフや結論の数値だけご覧いただいても、多少は楽しんでいただけるよう努力します。
まずは復習として、原点を中心とし半径を1とする円の数式を示す。数式は例によってWordで作成し画像として貼りつけています。
下図のように、中心が正三角形の頂点にある三つの円を考える。
パラメータ t(≧0)というのを導入して、上図の三つの円を、それぞれ次の方程式で表す。右上の紫色の円が(1)、右下の青い円が(2)、左側の黄緑の円が(3)である。
つまり、三つの円の中心が正三角形上にあるものとして、t によって正三角形の大きさを変えようというわけである。三つの円の中心が正三角形をなすとき、三つの円によって覆われる円の大きさが最大になることは、直感的に予想できる。厳密には証明が必要だが省略する(たぶん少しずらした場合を想定して背理法で行けると思う)。
t=0 のとき、三つの円の中心はみな原点となるので三つの円は完全に重なる。
で、前の図の方で、右上の紫色の円と右下の青い円の交点の座標を求めると、原点からその交点までの距離が、三つの円で覆われる円の半径になるはずだ。だから上掲式(1)と(2)を連立方程式として解いてやればいい。
(1)-(2)から-√3yt=0 すなわち t ≠ 0 のとき y = 0 は簡単に出てくる。t =0 は前述の通り三つの円が一致する場合だから、考慮する必要はない。
(1)に y = 0 を代入して x について解く。
二次方程式だから解が二つ出てくる。プラスが右側の交点、マイナスが左側の交点だ。今回は覆われる円の半径が知りたいのだから、プラスだけを検討すればよい。
この値が極値を持つということは、t で微分したときゼロになる値があるということだ。
(4)式の t による微分は、合成関数の微分の公式を知っていれば可能である。
これは余談だが、以前も使用した Microsoft Mathematicsで、微分の計算やグラフの表示ができることを偶然知って驚いた。
(4)式を入力して t で微分させているところ。
これは(4)式のグラフを描かせているところ。
ただし微分もグラフも、式によってはやってくれないことがある。
またグラフを描かせるに当たっては、変数が x と t のままではダメで、x を y に、t を x に変更する必要があった。またグラフの範囲を指定する方法がわからなかったので、t < 0 という今回の場合無意味な範囲までがグラフに描かれている。ただしそれでも、グラフがなだらかな極を持ち、ある値を超えると急速にグラフが下降するという特徴が確認できたことは、大いに参考になった。
* * *
結論を急ごう。(5)式をイコール0として解いてみる。二次方程式だが重根となる。
すなわち、1円玉によって覆い隠せるのは直径の比が1.155以下の5円玉、50円玉、100円玉、覆い隠せないのは1.155を超える10円玉と500円玉である。10円玉は、小数点以下2桁の差といえ、やはり覆い隠せなかったのだ!
あとはおまけです。Microsoft Mathematicsでは、上掲の方程式を自動で解かせることもできた。ただしこの機能も、使える場合と使えない場合があるようだ。使えたときにはラッキーと感じるが、使えなかった時にはフラストレーションがたまる。フリーソフトだからしゃあないか。でも、フリーでもこれだけ楽しませてもらえるのなら、いっそ本格的な数式ソフトを導入してみようか知らん。
あと、図形を描くにはExcelのバブルチャートという機能を使った。これがサイズが自動的に調整されたりして、なかなかいうことを聞いてくれなかった。
せっかくだから、t の値を0から適当な正値まで変えて いつぞやのように gifアニメ化してみた。原点中心に点線で描いているのが半径1の円である。カラーの円の交点が、だいたいの範囲で点線の円を超えていることに着目していただきたい。なお t が大きくなると円同士が離れてゆき、t =1のとき円同士は原点と点線の円周上で交わる。t が1を超えると原点付近に隙間ができ、交点は点線の円周の内側になる。円同士が交わらなくなるのは、t > 2√3/3 ≒1.155 を超えたときである。奇しくもこの値は、3つの円が覆い隠すことのできる最大の円の直径に等しい。
追記:
Microsoft Mathematics でのグラフ範囲の指定は、わりと簡単に可能でした。
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