🍉しいたげられたしいたけ

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1・2・3・4・5の次は、どんな整数でもOKという話

いつもコンパクトにミニ知識を紹介してくださる 父ロボ(id:titirobo)さんのブログは、毎回楽しく読ませていただいています。

今回はこの記事に乗っからせていただきます。

www.nanigoto.net

「1・2・3・4・5」と並んだ数字があるとして、「5」の次に来る数字は何でしょうか? 我々のほとんどは「6」と答えるでしょうが、我々の常識の通じない宇宙人は「126」と答えるかも知れない、という内容でした。

なぜ126かと言うと、我々は x の次の数字を x + 1 と予測するが、宇宙人は

( x - 1 )( x - 2 )( x - 3 )( x - 4 )( x - 5 ) + x

という数式に基づいて、次の数字を予測しているかも知れないから、というのがその理由だそうです。

実際 x = 1 ~ 5 の間は上式の一項目がゼロになるため二項目により 1 ~ 5 がそのまま数式の値になりますが、x = 6 のときには

( 6 - 1 )( 6 - 2 )( 6 - 3 )( 6 - 4 )( 6 - 5 ) + 6 = 5 × 4 × 3 × 2 × 1 + 6 = 126

と、確かに 126 になります。

 

しかし、この理屈はインチキなんです。

 

なぜなら数式の値を計算するときに、x の 5 の次の値として x = 6 = 5 + 1 を使ってしまっているからです。すなわち宇宙人は、x + 1 によって 5 の次の数字を予測する方法を知っていなければならないのです。 我々はこの宇宙人にかつがれたのでしょう、という意味のことを、上掲記事のブックマークコメントに投入させていただきました。失礼しました。

 

ところで多項式によって次の数字を決めてよいのであれば、どんな整数でも OK だということは、線形代数学を学んだ人の間では、わりあい広く知られていると思います。

ちょうど id:taamori1229 さんの 1月12日付 と 1月15日付 のエントリーが、その話題を扱っていました。言及失礼します。

taamori1229.hatenablog.com

taamori1229.hatenablog.com

taamori1229 さんは、1月12日のほうのエントリーで 2 つの定理を証明されていました。

x - y 座標上で xy とも整数になる点を格子点と呼ぶことにします。2つのうち最初の定理は、2つの格子点を通る直線は1次関数によって、3つの格子点を通る曲線は2次関数によって…一般に n 個の格子点を通る曲線はたかだか n - 1 次の多項式によって記述できるというものでした。

かりに通過させたい格子点の数を6つとすれば、最高次数が5次の多項式を使えばいいとうことになります。

そのうち5つの座標を ( 1, 1 )、( 2, 2 )、( 3, 3 )、( 4, 4 )、( 5, 5 ) とし、6つめの格子点を ( 6, n ) とすると、n はどんな整数であってもよいのです。

その証明のために、ヴァンデルモンド行列というのが使われていました。「名前を呼んではいけないあの人」ではありません…ってそれはヴォルデモートや。

ヴァンデルモンド行列というのは、次の数式における行列 V です。今回は5次式を想定していますので 6 × 6 行列になります。

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x1x6 、y1y6 が定数とすると、上式は a1a6 に関する連立6元一次方程式になります。V が正則行列であれば上式は解けて、 a1a6 が求める5次式

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の係数となるというのが、証明のおおざっぱな道筋でした。V が正則行列であることは別途証明が必要ですが、ヴァンデルモンド行列に関しては証明済みとのことでした。

 

そして上式に x1x6 = 1 ~ 6、y1y5 = 1 ~ 5、y6 = n (n は整数) という数値を当てはめると、上式は証明のみならず具体的な5次式を構成するのにも使えた、というのが、今回の拙エントリーの主題であります。

すなわち

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において V の逆行列を求め、両辺の左側から掛けてやればいいのです。

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手計算で 6 × 6 行列の逆行列を計算するのは困難ですが、数式処理ソフトというものがあります。

私が使える数式処理ソフトは Microsoft が出しているフリーソフトの Microsoft Mathematics だけです。Microsoft Mathematics の使い方に関しては、何度か記事を上げたことがありました。

www.watto.nagoya

 

Microsoft Mathematics に上の行列を入力してみたところ、あっさり逆行列を計算してくれたことに関しては、少なからずたまげました。何でもやってみるものです。

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そこで次に、まずは n = 7 として、すなわち格子点 ( 1, 1 )、( 2, 2 )、( 3, 3 )、( 4, 4 )、( 5, 5 ) 、( 6, 7 ) を通過する 5次関数の係数を求めてみました。上の行列とベクトル ( 1, 2, 3, 4, 5, 7 ) の積を計算すればいいのです。これは手計算でもできそうですが、引き続き Microsoft Mathematics にやらせました。

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すなわち

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が求める5次関数となります。

検算のつもりで Microsoft Mathematics にグラフを描かせてみたのですが、Microsoft Mathematics のグラフには格子を思い通りに描くことができませんでした。上手いやり方があるのかも知れませんが、私は知りません。

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そこで Excel に数式を入力してグラフを描かせてみました。グラフがきれいに格子点上を通過していることが確認できました。

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また taamori1229 さんの 1月12日付エントリーの 2 つ目の定理、すなわち x が 1 ~ 6 以外の整数の時も y が整数となる、すなわち格子点を通過することも、Excel で検算しました。x = 0 のとき y = -1、x = 7 のとき y = 13 です。値を代入すれば、いくらでも確認できます。x = 8 のとき y = 29、x = 9 のとき y = 65…と急速に増加します。

 

次に n = 5 すなわち格子点 ( 1, 1 )、( 2, 2 )、( 3, 3 )、( 4, 4 )、( 5, 5 ) 、( 6,  5 ) を通過する6次関数の係数を求めてみました。さきのヴァンデルモンド行列の逆行列はそのまま使え、乗算するベクトルを ( 1, 2, 3, 4, 5, 5 ) に変えるだけなのです。

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求める関数は

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となりました。

さきの格子点 ( 6, 7 ) を通過する関数と比べて、係数の絶対値が似ている、奇数次と偶数次の項の係数の符号がちょうど逆になっている、などの興味深い特徴が見られました。このあたりもうちょっと深掘りしてみると、面白いものが出てくるかも知れません。

Excel で描かせたグラフです。格子点 ( -1, 5)、( 0, 1 )、( 7, 1 )、( 8, -13) も通過しています。

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同様の手法で、 n = 6 すなわち格子点 ( 1, 1 )、( 2, 2 )、( 3, 3 )、( 4, 4 )、( 5, 5 ) 、( 6, 6 ) を通過する関数を計算すると、x の係数のみが 1、それ以外の係数はすべて 0 と求まりました。すなわち

y = x

という関数が求められたということです。自明のようですが、注目すべき結果だと思っています。

 

最後に、n = 126 の場合を計算した結果だけ示します。

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この数式が、父ロボ さんのエントリーに出てくる数式

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を展開したものと一致することは、手計算でも確認できます。

Microsoft Mathematics に描かせたグラフの概形を示します。格子点 ( 6, 126 ) まではとても描かせ切れませんでしたが、5次関数が持ちうる4つの極値をフルに使って、つじつまを合わせようとしている様子が伺えます。

今回の記事でいちばん他人に見せたかったのは、このグラフかも知れません。

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Excel で格子つきグラフも描いてみました。やはり格子点 ( 6, 126 ) を描くことは諦めています。

y の極値が 1 か 5 になっているなど、もうちょっと調べてみたい特徴がいろいろ出てきましたが、今回のところはここまでとします。

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余計なことですが、どうしても一言つけ加えたくなりました。

2012(H24)年度以降の学習指導要領で文部科学省が高校数学から行列を抹消したことは、どう考えても理解も納得もできません。

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