前回の記事から、結論の部分の数式を再掲します。√2(ルート2)の近似値を与える分数を、連分数や行列を使わず、すなわち漸化式を用いないで直接求めるとするなら、次式の n に正の整数を代入すればよいのですが…
真っ先に気になることは、√2 を求めるのに √2 を用いていることだ。「金を練るのに砂金を用いる」ってことではないかと、気持ちが悪いこと夥しい。前回の記事のブコメに何人かの人からご指摘をいただいたが、一番気にしているのは式を示した当の本人ではなかろうか。実はこういう感情は数学をいじる人間はしばしば感じていることらしく、私のようなどこの馬の骨とも知れぬチンピラではない世間に名の通った大数学者が、有名な定理をさして「あれはどうも気になるんだけどね…」という意味のことを漏らしたというエピソードは、いろんな本に散見される。
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それはともかく、私は以下のように解釈している。前々回の記事(すなわち「前編」)に示した連分数による √2 の近似は、拙記事中には導出を示さなかったが、√2 の「二乗すると2になる」という性質だけから導かれたものなのだ。連分数による逐次近似(行列によるそれも等価だが)は、その √2 が小数でどのように近似表現されるかを求めるためにやっている。
いっぽう上掲式に √2 が登場したきっかけは、固有方程式(二次方程式)の解を求めるところだった。既存の道具を使って「連分数による近似は収束するのか?」「その収束値は本当に √2 に等しいのか?」を検討する目的で導出したものである。金を練るのに砂金を使っている可能性があるとしたら、こちらかも。数学では循環証明というのがあって、命題の証明の前提にその命題と同値な命題を使用しており、結局何も明らかになっていないということが、ままあるので検証が必要だ。だがすぐにはチェックできない。
むしろ上掲式に関しては、計算結果が必ず整数になることや、√2 が必ずキャンセルされて計算結果には出てこないことにも興味がわく。 計算結果に√2が出てこないことには、√2 + 1 と √2 - 1 が互いの逆数であることが関わっていそうだ(1/(√2 + 1) = (√2 - 1)/(√2 + 1) (√2 + 1) = (√2 - 1)/(2 - 1) = √2 - 1)。つまり、ここでも√2の二乗すると2になるという性質だけが利用されている可能性が高い。これも要検証だが。
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要検証要検証ばかりで何が検証できてるんだと言われそうですねすいません。上掲式から何がわかるかを述べます。
まず n → ∞ としたとき、yn/wn が収束し、収束値が √2 であることが、ただちにわかる。ε-N論法 か ε-δ 論法を用いるべきかも知れないが使いこなす自信がないので、高校数学レベルの極限値を求める手法を用いて…
| 1 - √2 | < 1
より
だから
よって
というわけだ。
「前編」に書いたとおり、数列の収束は「コーシー数列の収束の定理」というのを使えばいいかなと思ったが、そんな必要はなかった(だよね?)。
もう一点、気づいたことがある。「前編」に示したExcelによる数値計算結果を再掲する。
√2 の近似数列 an (n=1、2、3・・・)は、n が奇数のとき √2 の実際の値より小さく、n が偶数のとき √2 の実際の値より大きくなっているように見える。それが数式によって確認できるのだ。
上掲式を √2 で割って1を引く。
1 + √2 > 1 - √2 により分母は常に正、分子に残っている 1 - √2 はマイナスだから、n が偶数(n+1が奇数)のとき正、奇数(n+1が偶数)のとき負となるのである。
さらに √2 +1 > 1 だから、この式は n → ∞ でゼロに収束する。
これのどこが興味深いかというと、実数の公理のうち「有界単調数列の極限定理」か「縮小閉区間定理」の、やや踏み込んだ具体例にならないかということである。ただしその詳細を述べる準備はまだない。ごめんなさい。
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他の数の平方根に関しては、まだやっていません。とりわけ √5 は黄金比 Φ を用いて √5 = 2Φ - 1と書け Φ は
と √2 よりもさらにシンプルな連分数で表すことができる。すぐにでも着手すべきだろうけど、私はやることが遅いんですすいません。
つか読者への練習問題とする( ̄^ ̄)ヒラキナオリ
追記:
書きました。
追記おわり
いろいろな数の平方根の連分数近似を行列に直してみると、どれかで行列が正則でない場合や行列の固有値が重解となる場合が出てきそうな予感がする。そうなったときどう扱うかは、趣味で数学を再勉強やっている者にとって格好のテーマとなりそうだとは思うのだが、どうだろうか。
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今回も参考文献を一つくらい示しておこう。森毅『存在定理 (数学ワンポイント双書 (14))』という本を開いたら、マクラの部分である第1章に、√2 の連分数近似の話が出てきていた(P11~)。マクラと言ったのは、この本の主題が「陰関数定理」や「微分方程式の解の存在定理」だからで、私はそこまで読み進めることができず挫折してお蔵入りさせていた。P11に載ってる図形を用いた √2 の無限連分数への展開は、視覚的にイメージしやすいのでスキャナで転載したいくらいだが、フラットベッドスキャナは壊れて処分してしまったので今はできない。あと √5 の話も少し出てきます(P15~16)。それどころか今回蔵書の中から引っ張り出して読み返したら、開巻一番で中学数学の「二等辺三角形の二底角は等しい」という命題を、循環証明を用いた偽証明でやっているではないか!
なんだか今は亡き森先生から「もっとちゃんと読め!」または「もっとしっかり勉強しろ!」と叱られているような気がした。
森先生と言えば、今を去ること30年以上前、数学II(線形代数)の期末試験として、「数学I(基礎解析・微積分)と数学IIの関係を論じよ」という意味の問題を出題されたことを覚えている。自由記述問題だが、当時の私は何を論じたらいいのか皆目見当がつかなかった。今回までの三回分の内容をまとめた答案を書いていたら、合格点をくれただろうか? ちなみに森先生の授業は、答案用紙に名前を書いて「単位をください」とだけ書けば単位をくれることでも有名だったが。
考えてみれば、√2 の近似の話題は、古来より数学に関心を持つものによってやり尽くされた観のあるもので、√2 の近似として 99/70 というのも、よく知られたものらしい。
上掲書P15には、こんな一節があるので引用する。
いつか落語家の桂文珍が大学へインタヴューに来たことがあって, √2 × 90 というクイズを出されて,なまじっか √2 × 70 を知っていたためまごついた.なんでも,国道2号線(京都はまだ1号線で,2号線に変わるのは大阪からだからピンとこない)を90(時速90キロ)でカケルと1万円とられるのだそうだ.
調べたらこの本も現在版元品切れ。残念。
追記:
ブコメにいただいた b:id:nakaken88888888 さんのリンク、本文に貼らせてください。
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