🍉しいたげられたしいたけ

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映画がなかなか観られない(後編:感想編)

なんで映画一本観るのにこんな苦労しなきゃなんないんだと思いつつ、ネット予約をしたシネコンに行ったら、けっこう空席が目立っていた。スクリーンの前なんかガラガラだった。そんなもんだ。「出勤時間かい?」と言いたくなる早い時間からの上映回だったからかも知れない。さもなくば夜の上映回と、いわば両極端。いらんことだが同時にチェックした独立系上映館のほうは、9月から一日の上映回数を三回に増やすとPRしていた。「今こそ書き入れ時」と判断したのであろうが、その成否やいかに。私の心配することではないが。

アイキャッチ画像は、例によって Amazon さんよりお借りします。サントラ盤のジャケットだけど。そういえば『カメラを止めるな!』という題名を、深い意味もなくなぜかこれまで書いてなかったな。名前を呼んではいけないあの人じゃないんだから。あとで自ブログ検索の必要が生じるかも知れないし、ちゃんと書いておこう。

カメラを止めるな! 【B2変形サイズオリジナルポスター付】

以下、ようやく肝心の感想。微妙なネタバレを含みます。なお今回は敬称略で失礼します。

 

観始めて、最初に感じたのは「出演者が全員、演技が抜群に上手い」ということだった。あとでネットで評判を検索して読むと、同様の感想を書いている人が多かった。ストーリーの性質上、巧い役者さんを集めないと物語が成立しないという事情はわかる。しかし、芸能界には詳しい方でないので役者さんの有名or無名はわからないが、もし無名で巧い役者さんだけを集めようとしてこれだけ集められるものだとしたら、日本の芸能界つか映画界つかの人材の分厚さは、たいしたもんだと思った。それが当事者にとって幸いなのか不幸なのかは別問題として。

当事者と言えば、この映画を観て一番楽しめるのは、なんらかの形で映画製作に関わった経験のある人たちだろうな、とも思った。メジャー、インディーズB級、自主製作、アマチュア、学生サークル等を問わず。とにかく製作者側の「映画愛」がビンビン伝わるのだ。「こいつら映画が本っ当に好きなんだな~」というのが、わかるのである。私はそういう経験がない。だから十分楽しませてもらったつもりではいるが、もしかしたらキモの部分は理解できていない可能性はある。そういえば本作の評判が広まったルートの一つに、映画関係の著名人の絶賛というのがあったことを後から思い出した。公式サイトには、そうした著名人のコメント一覧をまとめているページもあった。

kametome.net

いや関係者は素直に称賛する人ばかりとは限らず、中には嫉妬したり難癖つけたりする奴も少なくないんじゃないかと想像した。私自身がそういう心の狭いヤツだから、そういう妄想をするのだ。自分の心の鏡みたいなもんだ。例えばストーリー全体を詳細にチェックして、物語が破綻している部分の一覧を作ってアップしている人がいるんじゃないかなどと想像をたくましくして、「+ネタバレ」や「+批判」で検索してみた。あれだけ精密な構成なのだから、ノーミスなんてありえないだろうから。だが今のところ、そういうサイトはヒットしなかった。円盤が発売されてからじゃないと難しいかな?

代わりに大量にヒットしたのは、盗作疑惑を指摘するニュースやサイトだった。そういう話があるのは観に行く前からホッテントリなどで気づいていたが、心がけて閲覧は避けていた。ネタバレ食らう恐れが強いから当然だ。観てしまった後でいくつか読んでみたが、「そういうことを言い出す人はいるだろうな」以上の感想は湧かなかった。ちなみに著作権法では、セリフや文章が一字一句同じであれば違法となるが、アイデアそのものは保護の対象とはならない。

「あらゆる物語の構造は、とうの昔に出尽くしてしまっていて、あるのはその変奏曲だけだ」という議論は、昔からある。私はそれへのアンチテーゼとして「物語の素材が有限であることを認めるせよ、その組み合わせは無限の可能性を有する」「原色は有限、中間色は無限」ということを、たまに書いている。「映画内映画」という構造については、先行する作品としてフランス映画『アメリカの夜』や三谷幸喜『ラヂオの時間』を挙げているサイトが複数あった。三谷の影響を指摘する人、多いな。残念ながら私は題名を挙げられた作品はいずれも未見だった。代わりに、つかこうへい『 鎌田 *1蒲田行進曲』との間に、薄い類似があるように思った。『 鎌田 蒲田行進曲』では業界用語の「階段落ち」が重要なキーワードとして登場する。「階段落ち」というのがいかにとんでもねー行為であるかを、作中前半でこれでもかと説明しているのだ。本作では「ノーカット長回し」が、それに相当しそうだ。観客に向けてはサービスであり、製作者にとってはチャレンジングな所業である、という意味で。

あ、「映画内映画」というのは、言っちゃってよかったんだよね? そりゃ言わないに越したことはなかろうけど、タイトルでも軽くネタバレしてることだし。

もう一つ、詳しく書かないが前半の伏線を後半で回収というギミックについては、はるかな昔、地上波で観た西部劇を思い出したのだが、タイトルを覚えていない。キーワードをいろいろ変えて検索したが、それらしきものがヒットしない。主人公グループがとあるアウトローを追って寒村を訪れると、村人たちがアウトローに倒されたならず者たちを埋葬したり、破壊された村を修繕したりしている。そして後半では、時間をさかのぼってアウトローを主人公とする物語が始まるという筋立てだ。映画のレギュラー枠は今や日本テレビ系列の「金曜ロードSHOW!」だけになってしまったが、土曜日はフジ系列、日曜日はテレ朝系列、月曜日はTBS系列と、民放各局が固定枠を持っていた時代のことだから、ずいぶん昔になる。そもそも西部劇というジャンル自体が、とっくに衰退してしまった。

と書きつつ、もっと有名な作品で、類似の構造を持つシリーズを思い出した。ただしこちらは一つの作品の前半後半ではなく連作。題名を書くとモロにネタバレになるので書けない。いずれも「映画内映画」という構造とは無縁の映画である。

つまり本作の場合の「映画内映画」プラス「(詳しく書かない)」のように、何かと何かを組み合わせることにより、誰も見たことのないものを作れないかというアイデアは、以前から温めてはいるものの、自分の手ではまだ具体化に成功していない。

   *       *       *

本作のヒットを受けて、インディーズやB級映画には他にも佳作、力作がいっぱいあるから、そういうものにももっと脚光が当たってほしい、という意見がでてくるだろうなと思った。

そうしたら、ちょうど「はてな」トップに ナオミント(id:minmin70)さんのエントリーが表示されていた。勝手ながらリンク貼らせてください。自分用の備忘という意味も含めて。

minmin70.hatenablog.com

その一方で、インディーズやB級の大多数が無名のまま埋もれるのは、もちろん運ということもあるだろうけど、何と言うか、言語化できないレベルで「魅力に欠ける」あるいは「製作者の面白いと考えるポイントと観客の面白いと感じるポイントが合っていない」というような、いわば必然的な理由でヒットしなかったケースも多いからじゃないかとも、つい考えてしまう。何が面白いかを言語化するのは至難の技なんだよね。例えばついさっき「映画愛」という言葉を使ったけど、ではその「映画愛」とは何か説明しろと問われたら、とたんに説明に窮してしまうのである。

今回も、いらんこと言いの悪癖を発揮してオチにしよう。逆の極端もまた言えそうだ。『カメラを止めるな!』を称賛していた著名人の一人に、役所広司がいた。役所は間違いなく当代随一の役者の一人だ。だが役所を起用した宝くじのCMは、例外なくことごとく面白くない。現代日本の風俗を戦国・江戸に見立てるというギミックが、どれも全部つまらないのだ。しかしなぜあれが面白くないのか、つまらないのかを説明するとしたら、相当な分量の文章が必要となるであろう。「官のやることだから、つまらないに決まっている」という明快な説明も可能であろうが、「ではなぜ官のやることは面白くないのか?」と問い返されたら、ふり出しに戻るのである。

*1:誤記訂正しました。ご指摘ありがとうございました