鈴鹿大学裁判の公判期日はスケジュールが許す限り傍聴している。だがその内容を個別に発信することはできないので、支援団体が発行したメールニュースを 一昨日付け拙エントリー に転載した。
独自内容として、これまでは裁判所のある津市の散策記事を上げていた。裁判関係ねー。前回はこちら。
だがこの酷暑のさなか、散策はどうかと思った。代わりにどこか美術展を見に行こうと考えていた。今回は開廷14:00だから、それに先立つ午前中である。
津駅の西口を出たら、こんなポスターが目に飛び込んできた。
実は事前には、別のところを考えていた。三重県総合博物館は、駅からちょっと遠いのだ。
だがagain駅前バス停の時刻表をチェックしたら、10分少々も待てばバスが来ることがわかった。こりゃ行けってことだな。
勝手に恒例、乗らなきゃ撮れない車内の写真。一番前の席に陣取ったから、車内ほとんど写ってないけど。
三重県総合博物館を訪れたのは 約4年ぶり だ。
「高畑勲展」の幟がずらりと並んでいた。
門標。MieMu〔みえむ〕という愛称らしい。
フラットベッドスキャナでチケットの表裏をスキャンした。
展示会場は撮影禁止だったので、ここなら怒られまいと玄関ホール階段横のパネルを撮った。
以下すべて敬称略で失礼します。
もぎりを通過して会場に足を踏み入れると、まず壁面一杯に書かれた高畑勲の年譜が目に飛び込んだ。高畑は三重県の旧・宇治山田市(現・伊勢市)出身だったのか! 年譜は折につけ参照したいところだが、コピペするわけにはいかないのでウィキペを貼る。
展示品で一番点数が多かったのは、遺品から選んだという肉筆の絵コンテ、創作ノート、メモの類だった。セル画も多数あった。劇場版の場合はポスターも。それから小型ディスプレイや壁面へのプロジェクションが随所に設置され、1分ほどのアニメーションがリピート上映されていた。
順路の最初にあったのは、意外にも高畑の作品ではなく、高畑にその後の進路を決定させるほど大きな影響を与えたというフランスのアニメーション映画『やぶにらみの暴君』(1952) の一部だった。
『やぶにらみ…』は、私は「世界初の登場操縦型ロボットが登場する映画」として名前だけ知っていたが未見。説明書きを読むと、監督が完璧主義でいつまでたってもリリースしようとしないことに業を煮やしたプロデューサーが勝手に公開してしまい、意外にもそれが世界的に大評判を呼んだという趣旨のことが書いてあった。
なんだか本朝では、手塚治虫にこれとよく似たエピソードがあったような。
そういえば高畑と手塚という日本アニメーション界の2大巨人は、キャリアがぜんぜん交差していないように見受けられるのだが、どうなんだろう? 少なくともこの展示会には、見落としでなければ手塚の名は一度も出てこなかった。
ちなみに『やぶにらみ…』は、現在は完全版が『王と鳥』というタイトルで見られるとのこと。
大学卒業後、東映動画に入社した高畑が最初にスタッフに名を連ねたのは『安寿と厨子王丸』(1961) だったそうで、ポスターやスチール写真が展示されていた。
ポスターを見ると、声優として当時の東映の大スターたちの名前が並んでいた。佐久間良子、山田五十鈴、松島トモ子、宇佐美淳也、住田知仁(風間杜夫)、北大路欣也、東野英治郎…
この映画はライブカメラアクションすなわち現実の女優さんの動作を元にアニメーションを描くという手法が採られたそうで、ヒロイン安寿の動作は佐久間良子が演じだそうだ。
声優に本職の声優ではなく有名な俳優を起用する傾向は現在のジブリにも受け継がれているが、ルーツはここまで遡れたのか!
その後、TVアニメシリーズ『狼少年ケン』(1963~65) の演出を経て初めて監督した『太陽の王子 ホルスの大冒険』(1968) に大きめの展示スペースがとられていた。『ホルス』に関しては何種かのアニメーション、何種類もの人物相関図などを含む多数の手書きのメモ、セル画、それに海外の映画賞の受賞歴などが展示されていた。
しかし高畑は『ホルス』公開後、組合運動や東映動画内での将来の展望の行き詰まりなどいくつかの理由によりAスタジオに転じ、大塚康生、宮崎駿、小田部羊一らとともに『長くつ下のピッピ』『パンダコパンダ』そして『アルプスの少女ハイジ』(1974) を製作する。
このあたりでアニメーションにおける監督の役割とは何かという設問があり、高畑本人のインタビュー映像や図解による解説が置かれていた。
背景ひとつとっても、撮影すれば何かが映り込む実写と違い、アニメーションは描いてない絵は写らない。背景の一部分一部分を事細かに指示することもアニメ監督の役割だそうだ。この論点は、実写の監督に何か語らせればぜってー長くなりそうだけど、今はパスする。
高畑の開発したテクニックに、フレーミング技法というのがあるそうだ。ようするに人物が画面中を移動するとき、背景は左右の移動であれば横長に、前後の縦長にそれぞれ長大なものをあらかじめ描いておく必要があるとのこと。
説明を読むと「そりゃそうだろう」と思ってしまうが、その直後に『ハイジ』のオープニングが壁面にプロジェクションされていて、それを見たら思わず「あっ!」と声が出そうになった。鳥肌が立った!
YouTube から動画をお借りします。何度も何度も見た記憶のある映像だが、そういうことをやっていたのか!
この企画展は、見せ方がとても巧いと感じた。いくつかのブースごとにテーマを設定して、それを観客に提示している。企画者は高畑の仕事に相当な思い入れを抱いている人だと想像したが、どんな人だろう。チケットや公式HPを見たが、個人名まではわからなかった。
これでまだ展示の半分までも行ってない。長くなりそうなので一旦ここで稿を改める。
追記:
「後編」です。