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「高畑勲展 日本のアニメーションに遺したもの」@三重県総合博物館を鈴鹿大学裁判傍聴前に見てきた(後編)

前編はこちら。いきなり続けます。

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『アルプスの少女ハイジ』に関連してもう一つ、ロケハンの説明に多くのスペースが割かれていた。ロケハンというのは業界用語で現地取材という意味だと思う。

『ハイジ』の準備のため、ヨーロッパでのロケハンに多大な労が費やされのだが、事情あって制作直前に作画スタッフが交代したとのことだった。

よって『ハイジ』の作画はもっぱら写真を頼りに行われたようだが、それでも「ヨーロッパの友達に『ハイジ』は日本製だと言っても信じてもらえなかった」という真偽不明のエピソードがあるくらいだから、スタッフのこだわりと力量は並々ならぬものだったと推測される。

 

現地ロケハンは『赤毛のアン』(1979) においても行われたとのこと。『アン』に関する展示は、主人公の成長をいかに描いたかに力点が置かれていたのであるが。

あとカナダにある「赤毛のアン博物館」(「アン オブ グリーンゲイブルス博物館」)には「英語のしゃべれない日本人の女の子の迷子がいるんだが、お前のところに行きたいんだろう」という問い合わせが引きも切らないというエピソードは、やはり真偽不明ながら、なんか好きだなぁ。

 

続く『じゃりン子チエ』(1981) のブースでは、大阪のロケハンが行われたことが説明さてれいた。

内心「うーん、そうなるよな、そうすべきだよな」と思ってしまった。

『チエ』に関しては、映画版の声優が当時の吉本芸人オールキャストであったことも話題を撒いたのだったが、「前編」で述べた東映動画以来の伝統(?) だったことを思い出すと、なんだかいろいろと感じられるところがある。『チエ』の制作は東京ムービー新社で東映とは切れているはずだが、吉本興業と東映は縁が深いとか…視聴者には関係のないことですねすみません。

 

高畑勲はTVシリーズ(1981~1983) の総監督も務めた。TVシリーズでは西川のりお・上方よしおを除いて吉本芸人は声優陣から退いたが、高畑の意向でナチュラルな関西弁がしゃべれる声優たちが起用されたとの由。このことは ウィキペディアの『じゃりン子チエ』 にも書かれていた。今回も敬称略で失礼しています。

「前編」に書いた通り高畑は三重県出身だが、愛知(西部)&岐阜(南部)の名古屋弁勢力圏の人間からすると、三重弁は関西弁にきわめて近く感じられる。そのあたりにこだわりの一因があったのかも知れない。

ただし関西弁ネイティブに言わせれば「三重弁は名古屋弁やろ」てなことになるかも知れない。知らんけど。

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さらに次のブースは『火垂るの墓』(1988) だった。

この映画の準備に当たっては、神戸でロケハンが行われたとのことだった。神戸大空襲をスクリーン上に再現することが主目的だったという。

ここにも多数の資料が展示されていたが、三宮駅の円柱の写真に目が吸い寄せられた。

知ってる。ここは、あそこじゃないか。原作の野坂昭如の小説は、この場所から始まるのだった。

写真から目を引き剥がすように、隣の展示に視線を移動した。

 

『火垂るの墓』冒頭のシーンのセル画だった。

写真を元に描かれたことが、一目瞭然だった。

 

このブースに掲げられていた説明文には、同作中の「清太と節子の *幽霊* が省電に乗るシーンは原作にないものだった」とするものもあった。説明文は「幽霊」という語を用いていた。

このシーンは有名なネットロアを生んだが、それに反論する形で愚考を過去記事にまとめたことがある。

『火垂るの墓』、『平成狸合戦ぽんぽこ』、『かぐや姫の物語』に描かれた高畑勲の「来迎」 - 💙💛しいたげられたしいたけ

原作者の野坂は、自分の分身である清太の魂を救うことは考えていなかっただろう、だが他人の高畑は、そうではなかったという概要である。

しかし、フィクションではなく現実に存在した清太たち、節子たちを「救う」ということは、どういうことなのだろう?

 

機会あるごとに、何度でも。

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『平成狸合戦ぽんぽこ』(1994) など、ブースはあったが拙レビューを省略した作品もいくつかある。本展示では、いくつかのブースごとに共通テーマを設定しているように見受けられ、そのテーマに沿って拙レビューを述べたいと考えたからである。

テーマというのは「前編」に書いた「フレーミング技法」、ここまでで書いた「ロケハン」と、それからもう一つをこれから書く。

 

『ホーホケキョ となりの山田くん』(1999) ブースのとっつきには「躍動するスケッチ」という説明書きが掲げられ、主流であるセルアニメに背を向けるかのような手書きスケッチをアニメ化する試みが述べられていた。

『ホーホケキョ』は私は未見だが、いくつかの小型ディスプレイが壁面に設置され、1分程度の短いエピソードがリピートで上映されていたので、だいたいこんな作品だったのだろうなという想像はできた。

別の説明書きによると

・実線描画(モノクロの輪郭線を描く)

・内線描画(輪郭線内部の彩色を描く)

・輪郭線動画(実線と彩色の間に彩色のない部分を作る)

という、大変な手間をかける必要があるとのこと。

 

確かに大変とは思いつつ、日本のアニメーション草創期ではセル画は一コマ一コマすべて手書きだったわけで、それがコピー機やコンピューターグラフィックスなど技術の爆発的進化により手間が大幅に削減されてきた。

それを最前線の現場でずっと見てきた高畑らには、必ずや何か思うところがあったと思う。

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最後のブースは『かぐや姫の物語』(2013) だった。

やはり全編が「躍動するスケッチ」技法で描かれた作品である。

壁面へのプロジェクションで、主人公がサクラの下で踊るシーンと、十二単を脱ぎながら夜の都を疾走するシーンが、リピート上映されていた。

後者は、かなり多くの下絵も展示され、下絵からアニメーションに昇華する課程が事細かに説明されていた。

 

「前編」には書かなかったが、最初のほうの高畑がキャリアをスタートさせる頃のブースに『かぐや姫』の企画書も展示されていた。

展示会の企画者は『かぐや姫』を、高畑の畢生の作品と位置付けているのだろうと想像した。

その一方で、これは私の感想だが、高畑のような人であれば生命のある限り何か新しいことを始め続けただろうな、とも思った。

 

しかし改めて考えてみれば、展示された高畑作品のうち、私が見たことがあるのは半分どころか3分の1にも満たない。

おそらくは全作品に目を通し、膨大だったであろう遺稿を整理し、これだけわかりやすく展示にまとめた企画者さんの労力と高畑作品への想い入れを想像すると、自然と頭の下がる思いがする。

 

今思いついたんだけど、『平成狸合戦ぽんぽこ』ポスターの「漫画映画」というキャッチコピーは、「アニメーション」という語に対するアンチテーゼだと思っていたのだが、同じ語は『安寿と厨子王丸』のポスターにも見られ、原点回帰という意味合いもあったのでは、等々論点はまだいくつでも発掘できそうだ。

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チケットでは常設展にも入れた。だが高畑勲展を予定以上に時間をかけて見て回ってしまったため、常設展のほうを見る時間はほとんど残っていなかった。

だがagain無駄にするのはもったいなかったため、入場だけはしてみた。

4年前にここに来た ときは、企画展はたぶん入れ替え期間のためお休みで、常設展だけを時間をかけて見て回ったのだった。

そのときの記憶と大きな相違がないか、確認できればいいやと思った。

産卵中の状態で剥製にされているウミガメとか、展示物はだいたい記憶に残っている通りだった。

しかし展示会場全体のレイアウトとか、「あれ、こんなだったっけ?」と思うことは多々あった。人間の記憶はあてにならない。

まあいいや、また来る機会はあるだろう。名古屋市博物館の常設展の、縄文時代の人骨などは、何度見たかわからない。

 

「総合文化センター前」バス停で、裁判の開廷に間に合うバスの便をチェックしていた。

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向かいの建物の中庭にあるニキ・ド・サンファルの彫像に一目「お久しぶり」のご挨拶を、と思わないでもなかったが、いらんことをしてバスを逃したら元も子もないので自重した。

 

乗らなきゃ撮れない車内の写真…ってそれは「前編」でもうやった。

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