しいたげられたしいたけ

道を間違えているのが明白なのに、「きっと他の道はもっと間違っている」と進み続けたら、どうなる?

矢川冬『もう、沈黙はしない…性虐待トラウマを超えて』(インプレスR&D)~実父から受けた性虐待の記録(後編)

はてなブロガー 矢川冬(id:yagawafuyu)さんの著書『もう、沈黙はしない』を読んだ感想の続きです。 1回で完結させるつもりでしたが、書ききれませんでした。

もう、沈黙はしない・・性虐待トラウマを超えて

もう、沈黙はしない・・性虐待トラウマを超えて

 

 

「前編」では今現在、性虐待に苦しめられている当事者がいたとして、「児童相談所全国共通ダイヤル189(いちはやく)」が利用できるのではないかと考えたということまで書いた。

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https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/gyakutai/ より。

 

上掲ページ中の「児童虐待の定義と現状 |厚生労働省」へのリンクから、性虐待も通報対象であることを確認したところまでを、「前編」より再掲する。

身体的虐待 殴る、蹴る、叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、首を絞める、縄などにより一室に拘束する など
性的虐待 子どもへの性的行為、性的行為を見せる、性器を触る又は触らせる、ポルノグラフィの被写体にする など
ネグレクト 家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かない など
心理的虐待 言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、子どもの目の前で家族に対して暴力をふるう(ドメスティック・バイオレンス:DV)、きょうだいに虐待行為を行う など

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/dv/about.html より

 

ここからが今回の新しい内容。「児童虐待の定義と現状」のページには、他にも有用なページへのリンクがいくつもあった!「児童相談所全国共通ダイヤルについて」へのリンクは何度も貼っているのに、貼った自分がリンク先のページをちゃんと見ていなかったことに対して、自責の念に駆られる。

 

それはともかく、「児童虐待の現状」(pdf) というリンクからは、平成26(2014)年度の性虐待を含む児童虐待の、相談対応件数が閲覧できた。元はPDFファイルだがテキスト化して引用する。

平成26年度児童相談所における児童虐待相談対応件数の内訳

種類別

心理的虐待が43.6%で最も多く、次いで身体的虐待が29.4%となっている。

種類 身体的虐待 ネグレクト 性的虐待 心理的虐待 総数
26,181
(29.4%)
22,455
(25.2%)
1,520
(1.7%)
38,775
(43.6%)
88,931
(100.0%)

 

虐待者別

実母が52.4%と最も多く、次いで実父が34.5%となっている。※その他には祖父母、伯父伯母等が含まれる。

虐待者 実父 実父以外の父 実母 実母以外の母 その他※ 総数
30,646
(34.5%)
5,573
(6.3%)
46,624
(52.4%)
674
(0.8%)
5,414
(6.1%)
88,931
(100.0%)

 

虐待を受けた子どもの年齢

小学生が34.5%と最も多く、次いで3歳から学齢前児童が23.8%、0歳から3歳未満が19.7%である。
なお、小学校入学前の子どもの合計は、43.5%となっており、高い割合を占めている。

被虐待児 0歳~3歳未満 3歳~学齢前 小学生 中学生 高校生等 総数
17,479
(19.7%)
21,186
(23.8%)
30,721
(34.5%)
12,510
(14.1%)
7,035
(7.9%)
88,931
(100.0%)

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000108127_1.pdf より

性虐待に限定した場合の虐待者の数と割合までは、わからなかった。

 

より新しい統計資料はないかと思って、もう少し探してみた。同じページ中のリンク「福祉行政報告例」の移動先で、キーワードをいろいろ変えて検索したところ、次のサイトが見つかった。

www.mhlw.go.jp

上掲ページ中のリンク「結果の概要」(pdf) より、「図3 児童虐待の相談種別対応件数の年次推移」と「図4 児童虐待相談における主な虐待者別構成割合の年次推移」をお借りして貼ります。

 

図3 児童虐待の相談種別対応件数の年次推移

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https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/gyousei/17/dl/kekka_gaiyo.pdf P8より

 

図4 児童虐待相談における主な虐待者別構成割合の年次推移

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同上


グラフ中の平成26(2014)年度の件数が「児童虐待の現状」(pdf) の数値と同じなので、データの出所は同一で比較可能だと思われる。

 

このデータを見ているだけで、本当にいろんな考えが頭の中に浮かんでくる。

性虐待の相談件数は、この5年で1,500~1,600件と、ほぼ横ばいである。児童虐待相談件数の全体に対する比率は高くないが、母数が大きいので絶対数はかなりのものになる。

児童虐待相談の全体の件数が、毎年およそ一定の割合で増加しており、この5年間で約7万4千件から約13万4千件へとほぼ倍増していることも、ぞっとするほどの問題の大きさをうかがわせる。暗数に光が当たりつつあるということなのか、ほんとうに実数自体が増加しているのか…?

 

矢上さんの『もう、沈黙はしない』に話を戻すと、性虐待の被害者は、「このような目に遭っているのは世界中で自分だけではないか?」という孤独感を強く感じ、それが精神的苦痛を増幅させているという。

また「イエの論理」であったり、専門知識が十分に発達していなかったり、被害者の声を圧殺しようとする力学が、これまでの社会においては強く働いていたと言えよう。

直視もままならぬほどの酷い事実である。

しかし、本当にこの何十年かで、性被害者に対する社会的な対応は、劇的な変化を遂げつつあるようだ。「歴史的な転換期」と形容しても大袈裟でないのではなかろうか?

 『もう、沈黙はしない』より、もう一つ例を引くと、2017年6月に、110年ぶりと言われる刑法の一部改正があった。

主な内容は

  • 強姦罪の強制性交等罪への名称変更と法定刑の下限を引き上げ
  • 性犯罪の非親告罪化
  • 「監護者わいせつ罪」及び「監護者性交等罪」の新設

である。三番目の「監護者」とは「親権の一部である監護権を有する者」、「監護者」とは「子どもと共に生活をして日常の世話や教育を行う権利」とのことだ。まさしく肉親による性犯罪、性虐待を罪に問う法律である。

この成立に際して、著者は

心が震えるほどの喜びでした。参議院法務委員会インターネット中継をかたずをのんで見守りました。最後に全員一致で手が上がった時の光景は死ぬまで忘れません。

と記している(P81)。

しかし一方で、このような変化はまだまだ不十分で、ゆめゆめ後戻りさせるようなことがあってはならないとも考える。そのためには、無力な我々一人一人に何ができるか、ずっと考え続けなければならないだろう。

 

『もう、沈黙はしない』の巻末 P172 には、こう書かれている。

この本の収益はすべて、少女の自立のための

シェルター運営に使われます。

この本が日本のすべての

図書館に置かれるのが私の夢です。お近くの図書館に

注文票を出していただけたらとても有難く思います。

現住所と実家周辺の公立図書館4、5件に、シレっと注文票を出しに行こうかな。こちらが既読か未読かなんて、図書館側にはわかりっこないから。

追記:

矢川冬 さんから次のようなコメントをいただきましたので、本文にも転載します。失礼しました。

全国の図書館に本を置いてもらう私の夢は叶わないことが分かりました。
図書館は本の納入後に決済する後払い、アマゾンは入金確認後に発送する先払いで、両者は折り合えないそうです。友人が注文票を出してくれて分かりました。

何ができるかは、引き続き考えなきゃ…

 

追記の追記:

前編」の最初に書いたスピヴァクのエピソード、タネ本が見つかりました。本橋哲也『ポストコロニアリズム』(岩波新書) でした。

 現在ニューヨークのコロンビア大学で教鞭をとるガヤトリ・スピヴァクは、その難解な文章もさることながら、教室でもきびしい姿勢で有名である。あるとき大学の教室で、ひとりの学生が「先生の言われるように、自分の出自を自覚したり、自分がどんな特権的な位置から話をしたり知識を得たりしているかにいつも意識的であろうとすると、僕みたいに白人で男で中産階級のアメリカ人学生は何も言う資格がないんじゃないでしょうか」と聞いてきた。そのときスピヴァクはこう答えたという。「そうやってあなたに何も言えなくさせている、それはあなたの階級とか出身とかお金とか、そういうものでしょ。こうやっていっしょに勉強しているのは、そのような特権のありかをあなたが自分で知って、それをひとつずつ自分から引きはがしていくプロセスなんだ、と考えてみたらどうかしら。」

『ポストコロニアリズム』P147~148

うーん、だいぶニュアンスが違った! やっぱり記憶に頼るのはダメだなぁ。

でもこの白人男子大学生こそポスト・コロニアリズムやサバルタンを学ぶべきだということと、この学生の資質が厳しく問われる局面であるという認識は、間違っていなかったと思うので、そのままにしておきます。

ポストコロニアリズム (岩波新書)

ポストコロニアリズム (岩波新書)