今回は えむふじん @mshimfujin さんのコミックエッセイに言及させていただきます。
ご子息 えむお(中二)さんのこの回の紹介が「オカルト好き。宇宙ヤバイと思っている。」となっているわりには、えむお さんが Youtube をちゃんとネタとして消費されているあたり、なんというか心強さを感じました (^_^;
ところで「太陽は意外と冷たい」という俗説は、ネットが普及するずっと前からあった。少なくとも私が学生をやっていた40年近く前には、すでに存在した。40年だって。自分で書いて、めげるなぁ…
当時の大学理系の授業で、この手の雑談を得意とする教官がいたのだ。このネタをすでに知っていた学生もいた。
理由は、太陽の重さ1kgあたりの発熱量を計算すると、人体の重さ1kgあたりの発熱量よりずっと小さくなる、というようなことだったと思う。
ちょっと計算してみようと思った。太陽のデータは手元にある 上出洋介『太陽と地球のふしぎな関係 絶対君主と無力なしもべ』(講談社ブルーバックス) という本に載っていたので、それを使用する。
太陽は、自分の質量をエネルギーに変えながら生きているとも言い換えることができる。そのエネルギーは、毎秒、
L = 3.83 × 10^26 J
で、この値は広島に投下された原子爆弾五兆個分に相当する。太陽の質量は、
1.989 × 10^30 kg
上出洋介『太陽と地球のふしぎな関係』(講談社ブルーバックス) P51~52
同書ではこのデータを使用して、太陽の寿命があと50億年ほどであると計算しています。ご興味がある方はご参照ください。
このデータを用いて、太陽1kgあたり1秒あたりの発熱量を計算する。質量をM(= 1.989 × 10^30 kg)と表記すると
L/M = 3.83 × 10^26 ÷ 1.989 × 10^30 ≒ 1.926 × 10^-4 J/kg・秒
1ジュールは 0.239 カロリーなので、1秒あたり1kgあたりの発熱量は
1.926 × 10^-4 × 0.239 ≒ 4.603 × 10^-5 cal/kg・秒
いっぽう人体の発熱量はネットで検索すると大量に出てきて諸説あり、どのデータを採用したらいいのかよくわからないが、ぐぐって上位に出てきた次のサイトの値を採用させていただきます。
一日中安静にしていても、70kgで1700kcalの基礎代謝を持つ人の例をあげると、骨格筋は一日に370kcal、肝臓は一日に360kcal、脳は一日に340kcal消費します。
基礎代謝の各臓器・組織で消費するエネルギーの割合は?【医師監修】 | Rhythm (リズム) より
お借りするのは 70kg と 1700kcal だけである。
基礎代謝がすべて熱に変わるわけではないが、それを言うなら基礎代謝のほかに活動代謝というのがある。運動に使われるエネルギーで、とうぜん動けば動くほど大きくなる。今はざっくり基礎代謝だけが、すべて熱に転化するとして計算する。
1 日は 24 × 60 × 60 = 86400 秒なので
1700 × 10^3 ÷ 86400 ≒ 19.68 cal/秒
体重1kgあたり1秒あたりの発熱量は
19.68 ÷ 70 ≒ 0.2811 cal/kg・秒
すなわち人体1kgあたりの発熱量は、太陽1kgあたりの発熱量より約 6107 倍も大きい数字になるのだ! なんだそりゃ!?
すみません、私は計算間違いに天才的な才能を発揮するタイプなので、間違いがあればなんらかの形でお知らせくださいm(_ _;)m
太陽と地球のふしぎな関係 絶対君主と無力なしもべ (ブルーバックス)
- 作者: 上出洋介
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/04/04
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太陽の核融合エネルギーと人体の化学エネルギーでは、前者のほうが断然大きくなりそうな気がするのだが、 なんでこういう計算結果になるかというと、あれほど巨大な太陽であっても、超高温・超高圧により核融合が起きているのは、中心部のごくごく限られた一部分だけだからだそうだ。へぇ。
いっぽう人体では、頭のてっぺんからつま先まで、まんべんなく発熱が起きている。あ、肝臓や脳はカロリー消費多いから、まんべんなくってわけではないのか。まあいいや。
とにかくもし太陽の光球全体で核融合が起きているとしたら、発熱量は現実とは何桁も何桁も違ったものになっていただろう。当然、地球など一瞬で蒸発してしまう。かわりに50億年という余命を保つことはできないだろう。
ところで google:太陽は意外と冷たい を検索すると、上位にはなんだかわけのわからないサイトばかりが並ぶ。
表面温度27℃という妙に具体的な数字もまた、確かに何件もヒットするが、根拠は不明である。
検索結果を何ページもめくっても、今回の拙記事程度の、簡単な試算を行っているサイトさえなかなか見当たらない。
論語でいう「思いて学ばざれば則ち殆(あやう)し」という奴かも知れない。「検索結果に頼るのは危険」といういい実例になりそうな気がする。
とは言うものの、『太陽と地球のふしぎな関係』に限らず天文学に関する本を読むにつけ、これほど身近な太陽の中身について、知らないことばかりであるのに気づく。宇宙に至っては、なおさらである。えむお くんならずとも「宇宙ヤバイ!」と言わざるを得ない。
今回はタグにちょっと困った。「数学」タグを付けたけど、四則演算しかしてないから数学じゃないなぁ…「自然科学」とか「理系」とかいうタグを新設するべきかな?
追記:
「数学」タグは外して「自然科学」タグを新設しました。過去記事を検索すると「自然科学」タグが適切そうな記事は他にも書いていたので、遡ってつけ変えます。
追記の追記:
タグを付け直していて思い出した。こんなエントリーを書いたことがあったんだった。
想像だけど「太陽の表面温度27℃」説なんてのは、「邪馬台国は岩手にあった」その他もろもろの珍説奇説と同工で、ホンネは「俺様を説得してみせろ!」というところじゃないだろうか。「太陽の表面温度をロケットに乗って温度計で計りに行くわけにはいかない」という、見せかけの反証不能性を盾にとった。
現実には熱輻射スペクトルを利用した温度測定法というのが、溶鉱炉の温度測定など実用上の要請を受けて十九世紀には完全に確立していたわけで、素人の思いつきでピクリとも揺らぐようなものではない。
だがそうした説明を試みたら、わからないふりをしてさらに食い下がってくるかな? 実はツイッターでは、そんな地雷を一度ならず踏んだことがある。私は根性極悪なので「その手は桑名」とばかり「ではお前が説明しなさい」と切り返して、しばし遊んだものだが。こういうときは相手に説明させた方が勝ちである。勝ってどうする?
まあ拙過去記事に書いたように、切り返しは「あんたが死んだら、あんたの説は誰が受け継ぐの?」くらいに留めて、あとは触らないのが賢明というものであろう、たぶん。
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