「前編」はこちら。
物事は頭の中に置いておくだけじゃダメで、書いてみるとそれまで思いつかなかった新しいことに気づくことが、よくある。
「前編」で述べたパズルおよび元ネタの野崎昭弘氏『詭弁論理学』「40人の貴族とその従者」の推論は、成立しないのではなかろうか?
このパズルは独力で「正解」にたどり着くことを目指したものではなく、提示された「正解」に対して「なんかヘン」「だけど、もっともらしくも見える」「どこがヘンなのか言語化が難しい」といった思考の過程を楽しむタイプのものだと考える。楽しいかどうかはさて措く。
『詭弁論理学』も「早トチリ氏」と「コダワリ氏」というキャラクターを登場させ、架空対談させている。
だがイラストをいくつか描いてみて、「ヘンだ」という箇所の特定ができたように思った。前回1月15日付拙記事より「大臣4人のケース」の「1日目」を再掲する。

大臣1は、「自分の配偶者が潔白である」という仮定で大臣2の想像をメタ想像している。
大臣2は大臣2で、「自分の配偶者が潔白である」という仮定で大臣3の想像をメタ想像している。
大臣3は大臣3でやはり、「自分の配偶者が潔白である」という仮定で大臣4の想像をメタ想像している。
大臣3の想像の中で、大臣4は「自分以外の大臣の配偶者がみな潔白であったら、不倫をしているのは自分の配偶者に決定する」と考え、自らの手で配偶者を断罪するのである。
だがそのような事態は起きなかった。
このことから「大臣3の『自分の配偶者は潔白である』という仮定」が崩れた、としたのであるが…

その前段の「大臣2の『自分の配偶者は潔白である』という仮定」が崩れた、と考えることもできるのではないか? もしそう解釈したら、推論の連鎖に何か不都合が生じないか?

図示しなかったが、大臣1の仮定が崩れたと考えることもできる。
そもそも数学における背理法というのは、仮定を1つ置き、その仮定から導かれる矛盾を示すことによって仮定を否定するという手続きだったはずだ。
仮定が2つ以上あったら、使えないのではないか?
ちょっとぐぐったけど、仮定が2つ以上あるケースで背理法が使えないことを明言したサイトは、すぐには見つからなかった。
やはり数学の世界では、ある命題を否定するには、反例を1つ示せばいい。
あるやん!
仮定を2つ以上置いたため、推論が不能になる事例、あるやん!
それを「後編」で述べる。エントリーを書き始めた時点では脳内になかった、できたてホヤホヤの話題である。
それを述べる前に、当初オチとして用意していた話題をやってしまおう。「前編」に比べると、推論の過程はかなり易しい。
中世の小王国ナーナッパの7人の大臣のうち1人に、ガッシュ伯爵という人物がいたことにしよう。
ガッシュ伯爵は勇猛・忠良で王様の覚えめでたいが、いたって単純な人物である。
そしてあろうことか、ガッシュ伯爵の配偶者は不倫をしている。
そのことは、他の6人の大臣はみな知っている。だがガッシュ伯爵だけが知らない。
そして今回の問題では、他の6人の大臣の配偶者はシロ、すなわち不倫をしていないことにする。
大臣同士の仲は悪く、プライベートでは互いに口をきかないことは「前編」と同じ設定とする。

この状況下で、王様は7人の大臣に「前編」と同様の勅命を下した。
「汝らの奥方のうち、不倫をしている者がいる。それがわかったら、ただちに自分で手を下せ。さもなくば朕が汝らを粛正する!」
この問題の結末は、前回以上に悲惨である。勅命が下った翌日、ガッシュ伯爵以外の6人の大臣は、自らの配偶者に手を下したのだ。無実の罪である!

なぜこのような事態が生じたのか、説明せよ。
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まず大臣が2人のケース。ガッシュ伯爵と大臣1である。

大臣1は翌日の新聞を読み、ガッシュ伯爵が自分の配偶者を断罪しなかったことを知る。

もし大臣1の配偶者がシロであれば、ガッシュ伯爵は自分の配偶者がクロだと判断できる。
よって大臣1は、ガッシュ伯爵が配偶者を断罪しなかったのは、自分すなわち大臣1の配偶者もまた不倫をしているからだと判断したのである。

続いて大臣3人のケース。ガッシュ伯爵と大臣1、大臣2である。
大臣1は翌日の新聞を読み、大臣2とガッシュ伯爵が配偶者を断罪しなかったことを知る。

もし大臣1の配偶者がシロであれば大臣2の配偶者もシロであるから、ガッシュ伯爵は自分の配偶者がクロだと判断できる。
これにより大臣1は、大臣1、大臣2、ガッシュ伯爵の配偶者がそれぞれクロ、シロ、クロであると判断する。
大臣2も、同様の推論により大臣1、大臣2、ガッシュ伯爵の配偶者がそれぞれシロ、クロ、クロであると判断するのである。

大臣4人~7人のケースでも、同様の推論が成立する。大臣の数が何人であっても、悲劇が翌日に起きる点が「前編」の問題と異なる。


で、ガッシュ伯爵はどう考えていたかというと…
「俺の女房が浮気なんかするわけないだろう」

追記:
「後編」です。
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