- 作者: 近江誠
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2003/12/04
- メディア: 単行本
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その代わり、収録されたスピーチの文章の方を、短い時間、何度も読み返している。
収録されている文章は、ヘレン・ケラー『私の生涯』より、チャップリン『独裁者』より、舞台『アマデウス』のサリエリの台詞、キング牧師の有名な演説『私には夢がある』("I Have A Dream")、ゾラのドレフュスを弁護するスピーチの英訳、などなど。すごいでしょ?分量は長くても2〜3ページほど。しかし英文の常として、短い文章の中にでも難しい単語がこれでもかこれでもかと出てくるので、何度も繰り返し読まなければならない。そしてどうせ何度も繰り返し読むのであれば、いい文書を読みたいよね。ってことで、この本のコンセプトは成功していると思う。
ただし、各章の末尾には「モード転換」と題して、元の文章をもじった文例が登場する。例えばヘレン・ケラーの『私の生涯』に対しては「片想いの相手をコンサートに誘う」「採用試験で志望動機を話す」と題された1〜2ページの文章が付されているのだ。だが私にはこれがダメなのだ。学習教材としては練習問題が必要なのはわかるのだけど、なんだか質の悪いパロディのようにも読めてしまい、照れるっつーかこっ恥ずかしいのだ。耐えるべきか?
ふと気づいたのだが、『独裁者』はナチスの台頭を、「ドレフュス事件」は19世紀後半〜20世紀にかけての欧州におけるユダヤ人排斥を背景にしている。キング牧師の演説は、言うまでもなく黒人差別に反対する公民権運動のさなかでなされたものである。こうした文章が感動を呼ぶのは、今の日本の社会に「社会的弱者がより弱い者を叩こうとする傾向」とか「異質と認めたものを許容度少なく排斥しようとする傾向」が広がっているというバックグラウンドがあるからなおさらなのではないか、という気がした。
あまり快い想像ではない…