しいたげられたしいたけ

空気を読まない 他人に空気を読むことを要求しない

五木寛之『他力』(幻冬舎文庫)

他力 (幻冬舎文庫)

他力 (幻冬舎文庫)

幻冬舎文庫版で読みましたが、講談社文庫版も出ていて、そっちが先のようです(asin:4062730103)。
タイトルから予想されるように、仏教それも真宗関係の話題が多いが、時事問題とか一般の話題も多く扱われている。あとがきには「書き下ろし」+「雑多な発言を集めたもの」としか書かれていないが、たぶん多くは'90年代後半に週刊誌に連載されたエッセイだろう。著者は神戸の児童殺傷事件に大きな衝撃を受けたらしく、「酒鬼薔薇少年」への言及が、実に多い。
もともと文章が読みやすいうえに、収録されている100本のエッセイすべてが3ページ以内という短さのため、あっという間に読めてしまった。その代りと言うか、読みやすさの代償として、「もう少し掘り下げてくれればよかったのに、もったいない」と感じる話題がいくつもあった。
例えば、リュビーモフ氏という著名なユダヤ人演出家に会ったときの話(p126〜)。氏は著者に「蟻のように生きることに価値があると思うか?」と訊ね、それに対して著者は「当然でしょう」と答えたという。
この一瞬の真剣勝負のような対決は、両者の主張ともよくわかるような気がする。私は著者に賛同する。蟻の生命には価値がある。我々の生命に価値があるのと同様に価値がある。ではそれはどんな価値かと尋ねられたら、私なら、無価値であることが至上の価値なのだと答えるであろう。『金剛般若経』の論理である。だがさらにその説明を求められたら、とりあえず語りきるだけでも膨大なエネルギーを必要としそうである。A=否Aという論理は、欧米流の近代論理学と真っ向から対立する。
しかし3ページという制約の中では、この話題は著者の応答をもって容赦なく打ち切られる。
あるいは、アカデミー賞デザイン部門受賞者の石岡瑛子氏と対談した話(p164〜)。石岡氏は日本ではあまり仕事をしない。その理由は、日本で5人のチームを作って仕事をしようとすると、どうしてもいろいろなしがらみで、仕事のできない人が2人くらい入ってくるのだという。そうすると残りの3人が非常に優秀だったとしても、満足のゆく仕事はできないのだという。さもありなん(^^;
それに対して著者は言う。でもその方法でやっている限りは自分の力の100%maxを出すのが精いっぱいで、ノイズがなければ100%を超えることはできないのではないか。これもごもっとも。
もっと読みたいでしょ?でもこの話題もこれでおしまい。
追記:
『金剛般若経』を引き合いに出したけど、実のところ私の理解は、8/2のエントリーから一歩も前進していません。
[asin:
他力 (講談社文庫)

他力 (講談社文庫)