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綾辻行人をまた一冊読んでしまった

『人形館の殺人』(講談社文庫)

人形館の殺人 (講談社文庫)

人形館の殺人 (講談社文庫)

ネタバレの許されぬ推理小説で、どこまで書いていいものかわからないけど、まあこのくらいなら許されるだろうということで。
十角館の殺人 (講談社文庫)』がクリスティの『そして誰もいなくなった』へのオマージュになっていることは一目瞭然で、そのことは解説の鮎川哲也も戸川安宣も言及している(p468、489)。本書はというと、読み進むにつれて、これは同じくクリスティの『オリエント急行殺人事件』の舞台装置を次々と借用しているのに気づいた(具体的にどこがと書こうとすると、ちょっとデリケートなところに触りかねないのでやめておく)。
だが私はミステリの熱心な読者ではない。『そして誰も…』や『オリエント急行』は映画化されテレビでも放送されているので、世間での認知度は高いほうだと思う。しかし、例えば『僧正殺人事件』って一般常識の範疇なんだろうか?『帽子収集狂事件』は知っておくべきものなのだろうか?クリスティ作で映画化されていると言っても『ナイル殺人事件』あたりになると一般での認知度はどんなものだろうか?
何が言いたいかと言うと、ひょっとしたら『水車館…』も『迷路館…』も、下敷きにされているミステリの古典が存在するのかも知れないと思ったのだ。だが私にはわからなかった。もちろんどの作品も「この作品はどれを踏まえている」なんてことを意識しなくても楽しめるように書かれているのだが、でもなんとなく悔しい。
ネタバレ覚悟で解説してくれているサイトでもないものか…
追記:
エントリーを起こしたあとで思ったのだが、他人事ながら「館シリーズ」に関して心配すべきは、名作をパロディにしていることではなくて(そんなことは気にさえしなければ全然問題ない)、むしろトリックがミステリの約束事を踏まえていなければ意味がよくわからないことがあるという点ではないだろうか。
ミステリには探偵役が登場する。「館シリーズ」の探偵役は島田潔という人物である。ところが彼には風変わりな特徴がある。いや、ミステリの探偵役はみな風変わりなものだが、この探偵役は、シリーズ中においてミステリの「ある」約束事を(多分意図的に)何度か破っているのである。
それがどんな約束事なのかは、書きたいんだけど書けない。シリーズ中のとある作品のメイントリックに密接に関わっているからである。
そのこと自体は悪いことだとは思わない。私が「探偵役=犯人」というパターン以外でこのミステリの約束事を破っているのを目にしたのは、今回が初めてではなく、北村薫の「覆面作家シリーズ」が最初である。初出はどっちが先かは調べていない。調べればすぐわかるだろうけど調べるほどではないと思うので。「覆面作家」のときは、作品の内容とあいまってなぜかとても爽やかな印象が残った。
だが「館シリーズ」の場合、シリーズ第一作から順番に手に取っているのなら問題はないが、順不同で読む読者はいくらでもいるだろう。たまたま「パターン破り」を行っている作品を最初に読んでしまった読者は、下手をすると島田潔というのがどういう人物なのか、全く理解できないということになりかねないのではないだろうか?少なくともシリーズ第一作から順に読んだ場合とは、味わいはずいぶんと違ったものになっているはずだ。
これは「館シリーズ」だけの問題ではなく、「ミステリを読むのはシリーズごとに発表順で」みたいな常識もどきがあるのがいけないのだと思う。私だって「シリーズごとに発表順に」ミステリを読むという習慣が身についたのは、わりあい最近のことで、それまでは順不同で手当たり次第に読んでいた。海外作品でシリーズの全作品が翻訳されていないものは、いくらでもあるだろう。「シリーズごとに発表順で」を実践したくてもできないことだってあるのだ。
まああんまり読者に負担を強いないでくださいという、中途半端な一ミステリ読者からのお願いみたいなものでした。
追記の追記:(9/5)
ええい、「覆面作家」でブログ検索したら、以前のエントリーでこの作品が破っている「ミステリの約束事」というのを書いてしまっているではないか!
まあ「館シリーズ」では、どの作品でメイントリックとパターン破りが関係しているかは書かなかったから、別に書いてしまっても問題はないのか?
こんなブログでも読んでくださっている方はいるから、検索の手間を省くために、それでも一応フォントの色を白にして書いておきます。興味のある方は文字を反転させて自己責任で読んでください。
「館シリーズ」の探偵役=島田潔の風変わりな特徴というのは、ときどき事件の謎を解かないことです。すなわち作中の別の登場人物が探偵役を務めるということです。
十角館の殺人 (講談社文庫)

十角館の殺人 (講談社文庫)