今から30年以上前、京都で大学生をやっていた頃、大阪に、今ならさしずめ「伝説のオタク」と呼ぶべき大学生集団がいるという噂が聞こえてきた。当時は「オタク」という言葉はまだ一般化していなかったが。DAICON FILMという奇妙な名称の集団が作成した『愛國戰隊大日本』というタイトルは、驚くべきことに現在 Wikipedia の項目にまでなっている。ネットというものがなかった時代のことで、主に「ファンロード」「OUT」といったサブカル誌に、しばしば掲載された情報から、彼らの動向を知るしかなかった。だから、そういった方面に興味のない者の間では、すなわち一般には、彼らの知名度はゼロに近かっただろう。
誰のことを言おうとしているか、もうわかりましたね。
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就職して新入社員研修のため会社の寮にいたとき、たまに同期がレンタルビデオを借りてきて上映会をやることがあった。その中のタイトルに『王立宇宙軍オネアミスの翼』というのが含まれていた。残念ながら、私はこの時なぜかとても疲れていて、ビデオを観ずにさっさと寝てしまったのだが。
『王立宇宙軍』の制作会社ガイナックスは、DAICON FILMが株式会社に組織改編したところだ。今、検索で調べたら、『愛國戰隊』から5年しか経っていない。最短コースを突っ走ったのだろう。
私が『ふしぎの海のナディア』や『エヴァンゲリオン』を 観たのは、本放送からかなり遅れてのことになる。前者はレンタルビデオで、後者はネット配信で観た。『ナディア』を観たときの印象は「やりたい放題じゃないかこいつら!」というものであった。同世代のオタクとして、ここは『タイムボカン』、ここは『009』、ここは『デビルマン』、ここは『ヤマト』等々、パロディの元ネタが即座にわかったからだ。
『シン・ゴジラ』は未見だが、観た人の多くが「これはエヴァだ!」と感想を書いていることは、だから理解できる気がする。
私は自分がオタクだと思っている。だが中途半端なオタクだったのだ。もしその道で社会的な成功を得ようと思ったら、徹底的なオタクにならなければならなかったのかなと、今でもたまに考えることがある。
* * *
学生時代、マンガやアニメと並んで、バイクが好きだった。だから興味を引かれたのか、10年ほど前に出版された本だが、こんな本を読んだことがある。
搾取される若者たち―バイク便ライダーは見た! (集英社新書)
- 作者: 阿部真大
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2006/10/01
- メディア: 新書
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「バイク便ライダー」というのが、好きなことをやりながら収入を得られる職業ということで、バイクが好きな若者たちの間では根強い人気があるという。
バイク便ライダーは完全歩合制で、彼らの間で憧れの対象とされるトッププレイヤーは、500万の年収を稼ぎだすという。
これに対して、著者は疑問を投げかける。年収500万というのは、社会的な成功と言えるだろうか、と。「トップ」で500万だよ。
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我々の住む社会には、構造的に有利な立場と不利な立場というものが、残念ながら歴然と存在する。会社でいう元請けと下請けのように。チェーン店の「フランチャイザー」と「フランチャイジー」のように。バクチの胴元の対義語はなんて言うんだろう?
もっとあけすけに言うと、儲けようとしている相手から儲けるビジネスモデルというものが、歴然として存在するのだ。そして、いつの世もいちばん儲かるのは、胴元、元締めと呼ばれる存在なのだ。
アフィリエイトで『シン・ゴジラ』とか、あるいは『ポケモンGO』でも『君の名は。』でもなんでもいいけど、ビッグワードの上位を獲得したら、年収500万とか夢じゃないということは、わかる。でも、ちょっと想像してみてよ。じゃあ『シン・ゴジラ』や、あるいは『ポケモンGO』や『君の名は。』や…の制作に直接携わっている人々は、どれだけ儲けているんだろうか、と。
ご覧の通りこのブログもアフィリエイトに参加しているから、言えた義理ではないのだが、アフィリエイトって、典型的な「儲けようと思っている相手から儲けるビジネスモデル」ではないのかな。アフィリエイトで一番儲けているのは、胴元、元締めと呼ばれる存在ではないのかな。ここで胴元、元締めというのは、なんとかカレッジを主宰している一派ではなく、もっともっと大元のことである。彼らはフィクションではなく現実の存在なのだぞ。
誰に向けて言うのでもない、年寄りの独り言である。若い人がレールを外れようとするのは本能みたいなもので、止めようたって止まるもんじゃない。今しがたつけっぱにしていたTVが、100年前に、秀才として地元の期待を集めながら大いにレールを外して悲惨な死に方をした若者の番組をやっていた。本名を石川一〔いしかわはじめ〕といったそうだ。
ただし、つーか、だから、つーか、どうせ外れるんだったら、外す方向をちょっと考えてね、くらいは言ってみたい。何十年か後に、人生の最晩年期を迎えているであろう年寄りを、もう一度びっくりさせてくれると、ちょっと嬉しいかも知れないので。
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