期間限定的に、ツイッターの「自己紹介」欄に次のように表示してみた。
ヒトラー内閣教育相ベルンハルト・ルスト「ユダヤ人の影響がなくなったゲッチンゲン数学研究所はどうかね?」
ヒルベルト「閣下、もはやゲッチンゲンに数学はなくなってしまいました」
#日本学術会議への人事介入に抗議します
ダフィット・ヒルベルトは「ヒルベルト空間」「ヒルベルトの23の問題」などで知られる20世紀を代表する大数学者の一人、ゲッチンゲン大学数学研究所は第二次大戦前ドイツの数学のメッカであり「ヒルベルト学派」と呼ばれる数学者たちの拠点だった。
数学や自然科学に関心を持つ者の間では比較的広く知られているはずの対話であり、また時節柄、思い出しておいてもいい言葉だと思ったので、ツイッターに掲げてみた次第。
ただし正確を期すため、出典をできるだけ明確にしておこうと思った。当然ツイッターの140文字の範囲に収まりそうにないので、自ブログにエントリーを起こす。
まずはネットで検索すると、次の記事がヒットした。リンク失礼します。
一部、引用をお許しください。
ゲッティンゲン大学は久しく、数理物理学の宝石のような場所だった。しかし、あいつぐ免職と辞職によって、その科学的地位は損なわれていった。≪中略≫このような大脱出の直後、数学者ダフィト・ヒルベルトはある宴会の席で、教育相ベルンハルト・ルストの隣に座ることになった。大臣が彼に、「ユダヤ人の影響から解放されて、ゲッティンゲン大学の数学はどうかね?」と尋ねた。「ゲッティンゲンの数学ですって? もはや何もないというのが現実ですよ」とヒルベルトは答えた。
ナチスが行った数学者への弾圧については、リンク先の引用部の前後をご参照ください。
また次の記事も参考になると思います。リンク失礼します。
続いて書籍より。足立恒雄『無限のパラドクス―数学から見た無限論の系譜』講談社ブルーバックスから見つけた。
ヒルベルトの育てた大勢の数学者がユダヤ人か,ユダヤ人に関係しているという名目ですべてドイツから追い払われてしまった。「ゲッチンゲンがユダヤ人の影響力から自由になれて数学はどんな具合です?」とナチスの教育相が問うたのに対して,ゲッチンケンの数学ですと? 実のところ, もうゲッチンゲンには数学はなくなってしまいました」(リード「ヒルベルト」(彌永健一訳;<岩波書店>)による)という答がヒルベルトの不幸を象徴しているだろう。ヒルベルトは第2次世界大戦の終結を待たずして死亡した。
足立恒雄『無限のパラドクス』講談社ブルーバックス P239~240
C.リード『ヒルベルト――現代数学の巨峰 』 は私は未読。岩波現代文庫に入ったんだ! 機会があれば読みたい本が、また一冊増えた。
菅総理による日本学術会議任命拒否問題に対し、サイエンスやネイチャーといった世界的な科学誌や、ル・モンド、フィナンシャルタイムズ、ロイター通信といった海外の一流メディアが沈黙していなかったのは、このゲッチンゲン事件に限らぬ政治の科学への介入の、おびただしい歴史上の事例を踏まえてのことではないかと想像する。
以下、本文中で言及するいとまがなく必然性は薄いが、時代の記憶として現時点での最新ニュースへのリンクを2つほど保存する。
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