目次 各「その1」のみ クリックで詳細表示
(13) 第3景【鎌倉編】馬借・欠七(1/2)
(15) 第4景【現代編】個室病棟にて(1/2)
(17) 第5景【鎌倉編】ボクの無双(1/2)
(19) 第6景【鎌倉編】被差別集落(1/4)
(23) 第7景【鎌倉編】霊感商法(1/5)
(28) 第8景【現代編】ボクシング
(29) 第9景【鎌倉編】地頭・稲田(1/2)
(31) 第10景【現代編】哲学者
(32) 第11景【鎌倉編】心霊教ふたたび
(33) 第12景【現代編】裵〔ペ〕デスク
(34) 第13景【鎌倉編】刺客
(35) 第14景【現代編】守衛
(36) 第15景【鎌倉編】大団円(1/4)
(40) 第16景 鎌倉編の後始末
(41) 終景 現代編の後始末(1/3)
新着お目汚しを避けるため、日付をさかのぼって公開しています。体裁にこだわらず頭の中にあるものをダンブしている、という意味です。 あとからどんどん手を入れる予定です。前回はこちら。
(主人公「ボク」による語り)
マメさんのお母さんのイネさんは、真琴のお母さんすなわちボクの義母である伊佐子さんにそっくりだった。
しかし、やはり15歳ほど若いようだった。
そして何より、21世紀の伊佐子さんが才気煥発、おしゃべりと冗談が大好きなタイプの人だったのに対し、今ボクの目の前にいるイネさんは、見るからに打ちひしがれてやつれて暗い表情をしていた。
イネさんとマメさんの家は、荒縄で縛ったむき出しの丸太に稲藁の屋根を積み上げた、この時代によくある造りだったが、異様だったのはモノらしいモノが、ほとんどなかったことだ。
その代わり、大きな壺が部屋の隅にいくつも並んでいた。口と脚が小さく胴が大きい楕円形でひざ丈ほどもある、こげ茶色の壺だった。
21世紀のTVで見る、鹿児島や沖縄などの南国で酒や酢を熟成するのに使われる壺のようだった。想像だが、直江津から都へ貢物を運んだ船が、帰途に乗せてくる物資の一つだろう。
そんなに値の張るものではないはずだ。それを高値で売りつけられたのだろうか?
ボク「おじゃまします。初めまして」
イネ「どちらさまですか?」
マメ「さいきん紫雲寺にいらした善信さんというお坊さんです。ありがたいお話を聞かせてもらえると、たいへん評判になっている方です」
イネ「お坊さんとは、話をしてはいけないと言われています」
マメ「どうしてですか?」
イネ「仏教は外国の宗教だから信用してはいけないと、"心霊教" の方がおっしゃっていました」
突然そう来たか。
やばいな。"新聞TVラジオなどオールドメディアは信用するな" というのは、21世紀日本社会でもカルトやマルチが被害者を囲い込むのによく使われる "情報遮断" という常套手段ではないか。
ボク「ふたつほど弁明させてください。まず、今の私は僧侶ではありません。朝廷によって還俗させられ、すなわち僧侶という身分を奪われ、藤井善信という俗名を与えられています」
イネ・マメ「…」
ボク「それから、外国のものだから信用できないというのは、いかがでしょうか? 私たちが日ごろ口にしている味噌や醤油は、400年前の奈良時代に中国から朝鮮半島を経て日本に伝えられたものです」
イネ・マメ「…」
ボク「コメは、さらに以前に、やはり大陸から伝えられたといいます。もっと言うなら、漢字も元は中国のもので、仮名は漢字をくずして作られたものです」
イネ・マメ「…」
これがSNSで、もし相手が "俺さまを説得してみせろ" メソッドでも発動した日には、果てしないレスバトルが始まりかねないところだ。
レスバやったことがあるのかって? いいじゃないかそんなことは。
だが前にも書いた通り、この時代の人たちは純朴だ。これで納得してくれたのかどうか、これ以上の反論は、なかった。
反論しようとしたが、言葉に詰まっただけかも知れない。
ボク「どうか、少しお話を聞かせて頂けないでしょうか」
イネさんの話は、おおかたマメさんから伝え聞いた通りだった。
イネ「夫を亡くして、マメの父親ですが、ほどないころでした。卜占〔ぼくせん〕をやっているカメさんという女性がやってきて、タダで見てあげるというのです」
ボク「…」
イネ「家に入れたところ、さっと顔色を変えて "最近、どなたかご家族が亡くなられませんでしたか?" と」
ボク「…」
イネ「"夫を亡くしました" と答えたところ、"言いにくいですが、あなたの旦那さんの霊は、今、たいへん苦しんでいます" と言うのです」
ボク「…」
イネ「そして "苦しんでいる旦那さんを助ける、たった一つの方法がある" と言って、霊壺〔れいこ〕を買うよう勧めたのです」
ボク「それはおかしいです。 占いは生きている人の運勢を判定し好転させようとするもので、すでに亡くなった人には関係ないはずです。そもそも現生で何か物を買ったからといって、亡くなった人の後生に影響があるはずはありません」
イネ「しかしカメさんや、カメさんと一緒にやってくる "世界統一家族心霊教" の人たちは…カメさんはその "心霊教" の信者だと言っていたのですが…みんな口をそろえて "あなたの旦那さんの霊が苦しんでいるのが見える" と」
ボク「詐欺です」
はっきり言うしかないと思った。
イネ「そんなはずは…」
ボク「残念ながら、弱った人の心につけ込む悪質な詐欺の、典型的な手口なのです。彼らは平気でウソをつきます。そして彼らの目当ては、ずばりおカネです。おカネだけが目的なんです」
イネ「しかし、カメさんも、カメさんと一緒に来る "心霊教" の人たちも、優しくて親切な人ばかりなのです」
ボク「怖くて不親切な人だったら、最初から誰も信用しません。それに、この家には壺がたくさんあります。繰り返し壺を買わされたのだと思うのですが、旦那さんの霊はそれで救われましたか?」
イネ「いいえ…いつも "これが最後だから" とおっしゃるもので」
ボク「おカネがあると思われている限り、つぎつぎに口実をつけ壺を買わされたのでしょう。この壺は、私の見る限り、さほど値打ちのあるものではありません」
イネ「そんな…」
ボク「そして、マメさんのお話によると、とうとう小作権まで手放そうとなさっている。悪いことはいいません。その "心霊教" の人たちとは、今からでも縁を切るべきです」
イネ「しかしそれでは、私の夫の魂は救われないではないですか」
ボク「はっきり言います。イネさんの旦那さんが苦しんでいるというのは、ウソです」
イネ「…」
ボク「旦那さんの霊が苦しんでいるという根拠は、そのカメさんたち "心霊教" の人たちの言葉以外、何一つありません。そうじゃないですか?」
イネさんは、黙り込んでしまった。
ちょうどその時、外から人が来る気配がした。
2人ほどの女性が、家の中に入ってきた。断りもなにもなかった。
イネ「カメさん!」
(この項つづく)
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