目次 各「その1」のみ クリックで詳細表示
(13) 第3景【鎌倉編】馬借・欠七(1/2)
(15) 第4景【現代編】個室病棟にて(1/2)
(17) 第5景【鎌倉編】ボクの無双(1/2)
(19) 第6景【鎌倉編】被差別集落(1/4)
(23) 第7景【鎌倉編】霊感商法(1/5)
(28) 第8景【現代編】ボクシング
(29) 第9景【鎌倉編】地頭・稲田(1/2)
(31) 第10景【現代編】哲学者
(32) 第11景【鎌倉編】心霊教ふたたび
(33) 第12景【現代編】裵〔ペ〕デスク
(34) 第13景【鎌倉編】刺客
(35) 第14景【現代編】守衛
(36) 第15景【鎌倉編】大団円(1/4)
(40) 第16景 鎌倉編の後始末
(41) 終景 現代編の後始末(1/3)
新着お目汚しを避けるため、日付をさかのぼって公開しています。体裁にこだわらず頭の中にあるものをダンブしている、という意味です。 あとからどんどん手を入れる予定です。前回はこちら。
(主人公「ボク」による語り)
そのあと、ボクは心霊教の女性たちに取り囲まれるようにして、教団本部の外に追い出された。文字通り「つまみ出された」という格好だった。
マメさんはイネさんの娘ということで、敷地内に残ることが認められた。ただし敷地の内庭にとどまることが許されたのみで、屋敷の中には入れてもらえなかったようだった。
つまり3人がバラバラにされたということだ。これも洗脳宗教の常套手段である「分断」だろう。
意気消沈の極みだった。
どうしたらよかったのだろう? カメさんや鶴御前との論争に、軽々しく乗ってしまったことが間違いだったのだろうか? イネさんは、明らかにマインドコントロール状態にある。まずはイネさんの脱・洗脳を試みるべきだったろうか?
しかしタイミング悪く、初対面からほどないところへカメさんがやってきたのだった。時間的余裕は、ほとんどなかった。
頭を掻きむしりたくなるほどの悔恨の感情とともに、そんなことを考えながら紫雲寺への帰途を歩んでいると、正面から2人連れの男たちがやってきた。
大柄な男と、少し小柄だが敏捷そうな男だ。
やや車借馬借の捨六さんと欠七さんを思わせるところがあったが、彼らとの大きな違いは、周りにすさんだ空気を漂わせていたことだ。人相も悪い。
考え事をしていたので、間近に接近するまで気がつかなかった。彼らから明らかに敵意のこもった視線を向けられたので、やっと気がついた。
ボク「何かご用ですか?」
男たちはニヤニヤ笑いながら、黙ってさらに近づいてきた。嫌な笑い方だ。
荒事師というやつだろう。
「心霊教の人ですか?」
ボクは左足と左肩を同じ方向に出し、つま先で立ち膝を落とした。
いっしゅん考えて、さらに両こぶしを握りアゴの高さまで持ち上げた。
ファイティングポーズだ。
21世紀の人間が見たら「カッコつけてダサい」と思われるに違いないが、この時代の人間には、わかるまい。見慣れない恰好をしていると思われるだけだろう。
そう、ボクはボクシングをやっている。
といっても近場のジムの、ただの練習生だ。ボクササイザーと言うほうが早いだろうか。
作家の職業病である運動不足をちょっとでも補おうと思って始め、ずいぶん長いこと続けている。
それでも何年も昔、妻と二人で盛り場を歩いていたときに、若いチンピラにからまれたことがあった。
「かわいいね」とか何とか言って妻に近づいてきたチンピラとの間に、割って入ったのだ。
そのときは拳を構えはしなかったが、やはり同じ側の足と肩を前に出し、膝を落とした。
そうしたら、チンピラのすぐ後ろにいた兄貴分とおぼしき男が「おい、やめとけ」と口を出した。
ボクは決して強くなんかないが、少しはややこしくなりそうだということが、ボクの構えを見た兄貴分にはわかったようだ。じっさいボクが時間を稼げるだけ稼ぐから、妻には逃げて警察を呼ぶように言うつもりだった。
幸いそのときは、それで済んだ。しかしこの男たち相手には、見かけだけでは通用すまい。
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果たして小柄な方の男が、ものも言わずに掴みかかってきた。問答も何もあったものじゃない。
ボクシングは、絶対にケンカに使ってはいけない。それはわかっている。だが今はその "絶対" さえ通じない非常事態なのだ。
ボクはバックステップで男の腕をかわし、左の掌底で男の顔面にジャブをくれた。
グローブをはめない拳でパンチしたら、死なせてしまうかも知れないので、手加減したつもりだった。
腰の回転と腕の動きがシンクロする、理想的なジャブになった。
男は目を剝いた。
ワンツーの右フックは、自然に出た。練習で体にしみ込ませていた動きだ。
やはり掌底を使った。ちょうど手のひらが相手のアゴを包む形になり、相手の頭蓋骨は頸椎を中心に半回転した。
小柄な方の男は、たちまちその場にへたり込んだ。脳震盪を起こしたのだろう。気の毒だが、しばらく立ち上がれまい。
大柄な方の男は、いっしゅん驚いた表情を浮かべた。その表情はみるみる怒りに変わり、「うおぉぉぅっ!」と恐ろしいうなり声を上げながら、ボクめがけて握り固めた両手を拝み打ちに振り下ろしてきた。
動体視力を鍛えることは、ボクシングのトレーニングの基本だ。男の動作は、スローモーションのようによく見えた。
ボクはダッキングで、拝み打ちをかわした。ダッキングとは上体をかがめて相手の攻撃を避けることである。
ちょうど相手の腕と胴の間合いに入った。ボクは相手のみぞおちをピンポイントで狙って、右ストレートを放った。
今度は体勢的に掌底というわけにいかない。ほんらい「打ち抜け」と指導されているところだが、それをやるとマジで殺してしまう。腕を固定し、相手の突進する勢いを受け止めるだけにとどめた。
それで十分だった。どんなにぶ厚い筋肉と脂肪で守られていても、みぞおちは人体の急所中の急所だ。大柄な男はそのまま前方に転倒して「ぐえぇぇぇっ!」と苦悶の絶叫を上げながら、のたうち回った。
ボクは後ろを見ないで逃げた。走って紫雲寺へと急いだ。
とりあえず、この難は逃れたようだ。
しかし、決してこれで終わりではないという確信めいた予感もあった。極めてイヤな予感である。
あの荒事師たちは、油断していたから、もっとありていに言うとボクを舐めていたから、ああなったのだろう。次はそうは行くまい。
心霊教本部で鶴御前たちを相手にしたとき、彼女らはボクの手持ちのカードを知らないと考えた。
しかしそれはお互いさまで、ボクは心霊教や鶴御前がどんなカードを持っているか、まったく知らないのだ。いましがたの二人組の荒事師は、そのカードの一枚にすぎないだろう。
思えばあの鶴御前の、自信に満ちた表情が不気味だった。彼女はいったい、次にどんなカードを切ってくるのだろうか…?
(この項続く)
追記:
続きです。
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