しいたげられたしいたけ

空気を読まない。他人に空気を読むことを要求しない

未払い給与60万円余を法律の非専門家が法律に基づいて取り戻そうとした雑誌記事(前編:労働基準監督署編)

8月4日の弊エントリーには、多くのアクセス、はてなスター、ブックマークコメントをいただき感謝しています。ありがとうございます。

有益なブコメをいくつもいただきました。そのうちの一つを、今回のマクラに使わせていただきます。かるび(id:hisatsugu79)さんからいただいたブコメです。

アルバイト、パートと業務委託契約を結び個人事業主として扱うというグレーな雇用形態は思ったより広がっているのではないかという危惧 - しいたげられたしいたけ

業務委託、派遣、雇用契約の違いは明確で、ポイントもわかりやすいからハローワークなどで啓蒙活動をした方がいいのかも。知ってるか知らないかが大きな分かれ目なので・・・

2016/08/05 00:40

b.hatena.ne.jp

この件について、弊エントリー中には明記を怠りましたので、遅まきながら追記します。

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かるび さんのコメントでいうポイントとは、「雇用契約」のことだ(違ってたらご指摘ください > どなたか)。雇用契約は個人が労働力を企業に提供する代わりに、企業などはその対価として報酬を支払うという約束だ(民法第623条)。企業は契約締結に際し、賃金、労働時間、その他労働条件などを明示する義務がある(労働基準法第15条)。

雇用の形態は、正社員、契約社員、パート・アルバイトなどさまざまだが、いずれも上記法律の制約を受けることに変わりはない。

なお参考までに、委任契約、請負契約についても、たまたま手元にあるFOM出版『ITパスポート試験対策テキスト 平成26ー27年度版 (よくわかるマスター)』に説明が載っていたので、引用させていただきます。

(1)委任契約
「委任契約」とは、委任者が、受任者に対して業務を委託し、受任者がそれを承諾することによって成立する契約のことです。業務の完成を必ずしも目的としていないため、何らかの処理が行われれば報酬が支払われます。
委任契約は、信頼関係にもとづいて契約されるため、受任者は委任者の承諾がない限り第三者に業務を再委託することはできません。
委任契約における指揮命令系統は、次の図のようになります。

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 上掲書P61。図も。改行位置変更しました。

(2)請負契約
「請負契約」とは、注文者が請負人に業務を依頼し、その業務が完成した場合に報酬を支払うことを約束する契約のことです。業務の完成が目的であるため、結果(成果物)が出せない場合は、報酬は支払われません。
請負人は、原則的に下請人を使用して仕事を行うことができます。
請負契約では、請負元が雇用する労働者を自らの指揮命令の下で、請負先の労働に従事させることになります。そのため、指揮命令系統は次の図のようになります。

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上掲書P62。図も。改行位置変更しました。

なお『 ITパスポート試験対策テキスト』の最新版は平成28-29年度版で、そちらでは「請負契約」はP54に掲載されているが、なぜか「委任契約」の記載はなくなっており、代わりになのか、P55に「準委任契約」の記載が登場する。準委任契約では業務の完成を必ずしも目的としないため、何らかの処理が行われれば報酬が支払われる契約とのこと。医療行為(医師と患者)、不動産売買の仲介(不動産業者と顧客・家主)などがこれにあたるとのことである。 

いずれにしろポイントは雇用関係=指揮命令関係の有無である。雇用先との間に指揮命令関係があれば、すなわち上司の命令を受けなければならない立場にあれば、これは雇用関係である。医師は患者の希望をできるだけ聞くべきだろうし、不動産業者は顧客や家主の要望にできる限り応えるべきであろうが、こうした関係には明らかに指揮命令関係はない。

なんでITパスポートの入門書を何冊も持っているかについては、実生活の業務と関係があるので内緒。つか私は法律の専門家ではないので、もし実際にトラブルに直面した場合には、法律の専門家への相談を強くお勧めします。

問題は、こうした定義に照らしてグレーであるのに、あるいは明らかにブラックであるのに、委任契約や請負契約を強要してくる雇用主に、どうやって対処したらよいかということである。本来、法律に違反する契約書や契約者の一方の権利を甚だしく損なう契約書は、法的に無効のはずなのだが、一旦ハンコを押してしまった契約書を撤回させるには、可能であったとしても夥しいエネルギーが必要になることが多い。

これから引用するのは、月刊「マネジメント倶楽部」という全20ページほどの雑誌つか冊子の、ちょっと古いが2007年1~3月号に連載された「やってみました こんなこと」という記事である。

「マネジメント倶楽部」は、当時ご縁のあった税理士さんから無償で配布いただいていたものである。一般の書店で入手できるものではないと思う。現在はその税理士さんとの付き合いは途切れ、実家のほうで設立した法人が契約している税理士さんからは同じ冊子が送付されているとは聞いていないので、どのくらいの範囲で配布されているものかはわからない。

この連載では、実際に行動しているのは、法律の専門家ではない記者のようだ。事実上の倒産状態になった企業から前年(2006年)8月末で解雇された元従業員の依頼者とともに、未払い賃金62万余の回収を試みている。

雇用契約ではなく賃金未払いのトラブルだから、これまで弊ブログで扱ってきた話題とは若干違うが、「不当に侵害された労働者の権利を法律に基づいていかに回復するか」というケーススタディとして参考になるのではと考え、保存していた。

全3回の連載のうち、2回目と3回目のうち、一部を引用して紹介したい。連載第1回は、このシリーズの前提として、労働基準法第24条120条賃金の支払いの確保等に関する法律第6・7条、国税徴収法第8条労働保険の保険料の徴収等に関する法律第28条、が労働者の権利を守る法律として引用、紹介されている。

また、「本社 東京都、社員数 約25人、業務内容 情報処理サービスーソフトウエアの開発販売」と企業のプロフィール紹介がある。

また、賃金の支払いの確保等に関する法律第7条に基づく「未払賃金立替払制度」というのがあって、「労災保険に加入している事業主が破産もしくはそれに準ずる状態になった場合で、未払いの賃金があるときは政府が立替え払いをする」制度だそうで、それを利用すればなんとかなるだろうという見通しが語られている。

今回は連載2回の、労働基準監督署に相談した回から。

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「マネジメント倶楽部」2007.2 P10

一部をテキスト化して引用する。

まずは相談者(Aさん)から詳しい事情を聞いてみました。相談に乗ったのは解雇された翌年2月中旬です。
その会社は情報処理サービスやソフトウェアの開発・販売を主な業務としている会社ですが、その販売方法を巡って訴訟になるなど、トラブルの多い会社でもありました。結果的に経営が思わしくなくなり、相談者を含めて、8月末で社員全員がまとめて解雇されました。
その段階で賃金の未払いがあったのですが、9月になって残務処理として時給契約で働くように求められ、応じたものの、当然その分も未払いになっているというまさに「泥棒に追銭」状態でした。
インターネットの普及もあり、労使紛争にかかる情報もあふれているためか、最近はこのような労働トラフブルにおいても、泣き寝入りする人は減りつつあります。Aさんもご多分に漏れず、まずは自ら労働基準監督署に相談に行っていました。
相談の結果、労基署から会社に対して指導があり、会社側は12月中には未払い賃金を支払う旨の書面をAさん宛に送りました。しかし、結果的には支払いはありませんでした。

まさにブラック企業である。

「労基署は仕事をしない」という悪評は有名であるが、とりあえず腰を上げてくれてはいるようだ。

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「マネジメント倶楽部」2007.2 P10

前ページを含めて再び一部を引用。

普通に考えると、事務所もなくなり、実際に未払い賃金も約62万円あります。これなら、未払賃金立替払が可能で、あろうと思い、まずは一安心です。 Aさんと会ったのは前述のように 2月中旬。未払賃金立替払の申請は退職日から 6ヵ月以内に行わなければならないため、あわてて書類を作成し、 2月28日に駆け込みで未払い賃金認定申請を行いました。
労働基準監督署の担当官と商談しながら申請を行ったのですが、その会社については担当官も手を焼いているようでした。「ノラリクラリとかわす」「罵倒しても効き目がない」という担当官の愚痴を聞きながら書類を提出したものの、認定申請自体は「預かり」とされました。
理由を問うと、担当官が見るところでは、事業は細々とではあるものの継続しており、この状態では認定申請は却下せざるを得ないということでした。「いや、完全に営業は行われていませんでしたよ」と反論したものの、依頼人が働いていたのは支店であり本店は別にある、そちらでは夜中だけ何かしら活動しているということでした。

ここで引用を中断する。

引用しなかった部分には、未払賃金立替払制度に基づいて、国に未払い賃金を立て替えてもらおうとする試みが記述されている。

ただしこれはうまくいかなかったとのこと。表の部分には「賃金の支払の確保等に関する法律施行令」の第2条に記されている4か条が示されている。そのうち4条目が「労働者に賃金を支払うことができない」と「労働基準監督署長の認定があつたこと」という条件になっていて、この相談の場合、業務継続中につき認定が受けられなかった旨が記されている。

けっきょく未払賃金立替払制度は利用できなかったわけだ。こんなことだから「労基署は労働者の味方じゃない」と言われるのだ。記事にはそういう品のないことは書いてないが、私は品がないのではっきり言ってしまう。

ちょっと長くなるが、最後の部分を引用する。

「いっそ、完全につぶれてくれれば」という思いもむなしくこの状態では当面なすすべもありません。監督署からの指導がいったせいか、4月中旬に会社からなぜか1万円だけ依頼者に振り込まれました。これで終わりにしてもらいたいという意思の表れか、会社として最大限の誠意を見せたということなのかはわかりませんが、ここまでの働きはとりあえず1万円になりました。
それから 2ヵ月後、労働基準監督署から未払賃金立替払不認定通知書が届きました。結局、事実上倒産したという労働基準監督署長の認定には至らなかったわけです。
監督官に問い合わせをしたところ、「行政指導打切り」を告げられました。監督署としてもどうにもならないということです。次の手としては労働局の「紛争調整委員会によるあっせん制度」を利用する方法もありますが、あっせんは事業主側としては参加することを強制されたり、あるいは参加しなかったことによって、不利益を被ることがない制度なため、これまでの流れからもこの事業主はあっせんには参加しないでしょうから、おそらくは意味をなさないことは容易に想像ができます。

ここでもまた「制度があるのに使えない」という問題が出てくる。

やや長くなったのでエントリーを分割して、続きは「後編:少額訴訟編」としてアップする。