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「中央」以外に「央」を含む漢熟語はないかと考えた思い出

子どもの頃には難しいと感じた問題も、大人になってから思い返すとなんということなかったということは、よくある。

通っていた小学校の名前を「中央小学校」と言った。義務教育である小中学校を所管するのは原則的に市町村だから、○○市or町or村立中央小学校というのは、日本中にある。いらんことを言うと高校は原則都道府県または政令指定都市所管、高専・大学は国の所管、ただし例外多数、私立もあるし。

だが小学生はそんなこと知らないから、なんとなく自分の通う学校の名前が特別なものに感じられた。愛着が湧いたというやつだ。

 

ところが学年が進み覚えた漢字が増えるにつれ、この「中央」という熟語の奇妙さが気になり始めた。

たいていの漢字は、複数の熟語で用いられる。「学校」の「学」は「学習」や「入学」にも、「校」は「校門」や「校歌」にも使われる。今さら例を出すまでもないかな? でも国語の授業では「この漢字を含む別の熟語は?」なんて問題も出すよね?

ところが「央」は「中央」以外で使われている例が見当たらない。

ネットなど影も形もなかった時代のこと、小学生が何か自主的に調べようとしても手段は限られている。参考書・問題集や学習雑誌がこの手の話題を取り上げているたびに気をつけていたが、満足のいく解答は得られなかった。

 

こういうことが気になる小学生って、どのくらいいるのだろう? 少数派であることはハナから自覚していたが、田舎の公立小学校のこと、自分以外にそういうことを気にする奴が見当たらないのが物足りなかった記憶がある。

 

長じてから達した結論を先に書いてしまうと、「央」を含む「中央」以外の漢熟語は存在する。ただし特定の熟語でしか使われない漢字は無数にある。

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最初に見つけたのは「吉良義央」じゃなかったかと記憶している。忠臣蔵の敵役だが上野介という官名のほうがよく知られている。今どきは忠臣蔵がドラマ化される機会は少なくなったが、何十年か昔は連ドラがない年でも年末のたびに古い映画が地上波放送されていたように記憶している。また当時は「よしなか」と発音していたはずだが、現在は「よしひさ」説が有力との由。

それテレビで見ただけじゃねーか!

ja.wikipedia.org

 

見つけたからといって、感激したとか感動したとかはなかった。「ああ、あるのか」程度だったのではないかと思う。よく覚えていない。

固有名詞を許すのであればアリだろうな、くらいは考えたかも知れない。

有名人ではうんと新しいが元プロ野球選手の 松井稼頭央〔まついかずお〕さんもいるよね。

ja.wikipedia.org

 

住んでいる地域によっては、こんなことで頭を悩ます余地はなかったかも知れない。もし関東地方在住であれば「圏央道」〔けんおうどう〕という名前が、実物が未着工だった頃でも計画時から耳に入ってくる機会があったはずだし…

www.ktr.mlit.go.jp

 

北海道在住であれば「道央」〔どうおう〕という言葉がなじみのあるものに違いない。

hokkaidofan.com

 

「普通名詞はないのか?」という突っ込みが入りそうだが、「扇央」〔せんおう〕というのが確か高校地理で出てくる。ということは高校で地理を履修すれば(実際したのだが)私の疑問は遅かれ早かれ解消したわけか。

「教育ネットひむか教育用コンテンツ集」 http://ebox01.miyazaki-c.ed.jp/cts/ さんからお借りします。

 

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私が小学生をやっていたのは、阪神大震災や東日本大震災のずっと前だった。

「震央」〔しんおう〕という言葉の必要性は、その頃に比べていや増しているのではなかろうか。

ja.wikipedia.org

 

話はズレますが震源と震央の違いについては「国土交通省 四国地方整備局 四国の防災・災害情報」さんのページがわかりやすかったのですが、ブログカードが貼れなかったのでURLのみ示します。震源は地中、震央は地表とのことです。

「震源と震央の違いは」

http://www.skr.mlit.go.jp/bosai/bosai/tounannkai/kisochishiki/tunamikankei/shingentoshinou/shingentoshinou.html

 

漢和辞典も引いてみた。前回と同じく 明治書院『新釈漢和辞典〔新修版〕』より。

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「央央」知らんかった。「未央宮」〔びおうきゅう〕は固有名詞で、漢の高祖が中国統一後に長安に築いた王宮の名だ。高校世界史の範疇としては、ちょっと厳しいかも知れない。

ここで中国史ファンとして別の疑問が生じた! 歴代中国王朝の王宮で名前がぱっと浮かぶのは、前漢の未央宮のほかに元明清すなわち最後の王朝たちの「紫禁城」くらいしかなくない? 紫禁城と呼ばれるようになったのは明代からだそうだが。あ、秦の「阿房宮」があったか! 同好のみなさんはいかがですか?(いるのか?

 

ちょっと検索したところ、後漢は南宮北宮の両宮制というややこしそうな制度をとっていたらしい。三国志なんて宮廷を舞台にすることが多いから王宮の名がないはずないのだが、記憶に残らないのはなんでだろう?

三国の魏から隋唐にかけては、場所と建物が変わっても「大極宮」という通し名が用いられたらしい。日本の「大極殿」〔だいごくでん〕は明らかにこの名に倣ってそうだけど、あちらは「たいきょくぐう」と読むらしい。なお大沢京極宮部の話は今回はパス。

北宋は東京大内皇宮、南宋は臨安大内禁宮? 知らねぇ!

 

話が大幅にずれた。まとめると、「央」を含む漢熟語は普通名詞としては「中央」以外には「扇央」と「震央」と「央央」、固有名詞なら他にもありそう。

「卍」より少ないな。

 

「央」は造語要素として有能そうに思えるんだけどね。どういうことかというと「中心」とか「中央」とかいうのは実は複数あることが多くて、互いに区別の必要が生じると考えたからだ。「言葉は区別するためにある」というのはソシュールが見つけた言語の根源的機能のはず。

三角形は「五心」すなわち内心、外心、重心、垂心、傍心が有名だが、ウィキペ「三角形の中心」によると7,500、高校数学の美しい物語 さんにによるとなんと9,500以上の中心があるという。へぇ!

manabitimes.jp

以前うちのブログでもネタにした フェルマー点 はウィキペと高校数学の美しい物語の両方に載っているが、刈谷の定理 で与えられる点のほうはどっちにも載ってないっぽい。

 

この方向にずれても、やはりキリがないので戻す。今は数学的な話ではなく言葉の話がしたいのだ。

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例えば円環つかドーナツ型つかを考えると、外周円または内周円の中心(上図左の✕)も円環の「中心」と言えようが、外周円と内周円の中点を結んでできる円(上図左中に点線で示した円)もまた「中心」と表現したくなるまいか?

そうすると両者を区別する必要が生じる。

数学の言葉を用いれば区別はつくが、最初に「圏央」という言葉を見たとき「央」いう文字を用いたのは、なんとなくこの点線で描いた円を意味したかったのかなと思った。

実態は「首都圏中央自動車道」の単なる略語のようだが。

 

扇形については、もし「×扇心」という言葉があったら、上図右の「◎」すなわち扇の要の位置をイメージする人が多くないか? だから扇状地で「✕」の位置を示すために「扇央」という言葉を使ったのではないかと想像した。

前述の通り扇状地で「◎」の位置を示す言葉としては「扇頂」が使われ、固有名詞を除いて「×扇心」という言葉はないようだから、どっちでもよかったかも知れない。

 

図は作らなかったが、北海道の「道央」はどうだろう?  もし「×道心」という言葉があったら、図形的な重心すなわち上川盆地あたりをイメージする人が多いかも知れない。

よそものとしては「道央」は人口重心的な位置を意味するのにうってつけな気がしたが、地元の方はどんな風にお感じになりますでしょう?(←まともに相手する必要ないですよ

 

「圏央」にしろ「道央」にしろ、単なる語呂で選ばれた可能性がいちばん高いかな?「震央」のかわりに「×震中」「×震心」なんて即却下であろう。

 

そんなわけで結論を繰り返すと、「央」を含む「中央」以外の熟語は存在する。

ただし特定の熟語でしか使われない漢字はたくさん存在し、それはそれで掘り始めたら面白そう。「魑魅魍魎」なんて「魅」以外は他ではぜってー使われていそうな気がしない。つかなんで「魅」という普通の漢字が混じっているのか、むしろ不思議なくらいじゃないですか?

前回の拙エントリーのラストに貼った旧2ちゃんねるのスレッドを、また貼ろう。 

academy3.5ch.net

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