ツイッターのタイムラインをぼーっと眺めていたら、平均学歴を各国別に色分けしたヨーロッパ周辺地図が流れてきた。色分けの凡例として “primary”、 “secondary”、 “tertiary” とあった。最初の2つはわかるけど、3番目は何だ?
何だもないもんだ。“primary” が「1番目」、 “secondary” が「2番目」であれば、 “tertiary” は「3番目」以外にあるもんか。「初等学校」、「中等学校」、「高等学校」というような意味であろうことは、容易に想像がつく。小学校をイギリス英語で “primary school”(米 “elementary school” )ということは知ってたし。
しかし “tertiary” という単語を知らなかったことが、ちょっと悔しかった。発音もわからなかったし。だから検索してみた。カタカナ表記すると「ターシャリ」のように読むらしい。
そうすると「4番目以降はどうなっているのだろう?」という疑問も湧いた。どうやって検索したらいいかちょっと迷ったが、首尾よく次の記事を探し当てることができた。
上掲サイトより、表のみ引用する。
| n | 英語 |
| 1 | primary |
| 2 | secondary |
| 3 | tertiary |
| 4 | quaternary |
| 5 | quinary |
| 6 | senary |
| 7 | septenary |
| 8 | octonary |
| 9 | nonary |
| 10 | denary |
| 11 | ? |
| 12 | duodenary |
11番目が「?」となっていることが気になる。 さいわい上掲記事には、出典のURLが明記してあった。
い~かげん訳すると、「4番目以降はめったに使われることないですよ。11番目に対応する語はないですよ。でも12番目に対応する “duodenary” という語はありますよ」というようなことが書いてあった。
へぇ、英語で言えない語があるのか。
しかし、スペルを眺めると、フランス語の「序数」と似ているようである。序数というのは、英語では “first”、 “second”、 “third” というアレだ。
手元に、1978年初版の古い本だが斎藤繁司『初歩フランス語―英語活用』(白水社) というのがある。フランス語の序数(序列数形容詞)は P76~77 に載っていたので、上の表に付け足してみよう。
| n | 英語 | 仏語序数 |
| 1 | primary | premier première |
| 2 | secondary | deuxième |
| 3 | tertiary | troisième |
| 4 | quaternary | quartrième |
| 5 | quinary | cinquième |
| 6 | senary | sixième |
| 7 | septenary | septième |
| 8 | octonary | huitième |
| 9 | nonary | neuvième |
| 10 | denary | dixième |
| 11 | ? | onzième |
| 12 | duodenary | douzième |
1 のところの “premier” というのは男性形であり “première” は女性形である。またフランス語序数は13以降もずっと存在する。
こうやって並べると、イレギュラーなところは存在するし、英語らしい綴り、フランス語らしい綴りはあるけど、相似もまた明らかなように思えるのだが、いかがでしょう?
してみると “onzième” に類似した דondenary” とか何とかいう単語があってもおかしくない気はするが、ぐぐると人名とおぼしき固有名詞しか出てこない。
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繰り返すが英語の序数は “first”、 “second”、 “third” …で “primary”、 “secondary”、 “tertiary” とは別物である。
この序数を尋ねる表現が英語にはないことも、また有名である。英語では「トランプは何代目の大統領ですか?」とは言えないそうだ。「リンカーンは16代大統領ですね、ではトランプは?」と訊くしかないそうだ。
念のため web の機械翻訳を何例か試したが、どこもトランプを判で押したようにカードゲームのトランプと誤訳しやがった! 仕方がないので「オバマ」で試したが、まともな答えは表示されなかった。
これも古い本(1976年初版)だが、浜崎長寿『ゲルマン語の話』(大学書林) というのを持っている。この本の P110 に、次のようなことが書かれている。
IV.13 順番を問う「何番目の」はドイツ語ではやはり同じやり方で wievielt という(オランダ語 de hoeveelste)。英語にはこういう語はない:Den viefielten(Tagが省略されている)haben wir heute? 今日は何日ですか(What day of the month is it?)
ドイツ語 “wieviel” は英語の “how many” に相当する疑問詞である。ならば英語ではさしずめ דhow manyth” であろうが、「こういう語はない」と断定されてしまっている。
念のため検索すると “nonstandard” としながらも、出てこないことはないなぁ。
なお引用部の「やはり同じやり方で」とあるのは、直前にドイツ語、オランダ語などゲルマン7ヶ国語の序数の作り方の説明があるからだ。
『ゲルマン語の話』P9~には各国語の基数の表が、P107~には序数の表がある。そのうち英語、ドイツ語、オランダ語の1~12までを抜き出してみる。
| 英語 | ドイツ語 | オランダ語 | |||
| 基数 | 序数 | 基数 | 序数 | 基数 | 序数 |
| one | first | ein[s] | erst | een | eerste |
| two | second | zwei | zweit | twee | tweede |
| three | third | drei | dritt | drie | derde |
| four | fourth | vier | viert | vier | vierde |
| five | fifth | fünf | fünft | vijf | vijfde |
| six | sixth | sechs | sechst | zes | zesde |
| seven | seventh | sieben | sieb[en]t | zeven | zevende |
| eight | eighth | acht | acht | acht | achtste |
| nine | ninth | neun | neunt | negen | negende |
| ten | tenth | zehn | zehnt | tien | tiende |
| eleven | eleventh | elf | elft | elf | elfde |
| twelve | twelfth | zwölft | zwölft | twaalf | twaalfde |
多くの読者の方は「なんのこっちゃ?」と思われるであろうが、やってる方は、オランダ語における英語とドイツ語の混ざりっぷりが、とても面白いのだ。オランダ人にしてみたら「英語とドイツ語がオランダ語を真似たのだ」ということになろうが。
それはともかく、例外あれどドイツ語はだいたい基数に “-t” をくっつければ、オランダ語は “-de” をくっつければ序数ができる。それに準じて序数を尋ねる疑問詞もできたのだろう。英語に限ってそういう疑問詞が、ずっと定着しなかったほうが不思議なのだ。
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それでは日本語で言えない表現はないのかということになるが、一例として「やまとことば」の数詞が 1~9 までしかないことは、なぜか『ゲルマン語の話』P106にも出てくる。10以上は 10 の「ソ」、100 の「モ」、1000 の「チ」、10000 の「ヨロズ」が、単語の中に生きのこってはいるが(三十路〔みそじ〕など)、自由に使えるわけではない。先進国であった漢語に取って代わられてしまっている。
興味深いことに、韓国語では、固有語の数詞で99まで言えるそうだ。だからなのか、韓国語では年齢などを表すときには、漢語系の数詞ではなく固有語の数詞を使うとのこと。
| 日本語 | 韓国語 | ||||
| 漢語 | 固有語 | 漢語 | 固有語 | ||
| いち | ひとつ | 일 | イル | 하나 | ハナ |
| に | ふたつ | 이 | イ | 둘 | ツゥル |
| さん | みっつ | 삼 | サム | 셋 | セッ |
| し | よっつ | 사 | サ | 넷 | ネッ |
| ご | いつつ | 오 | オ | 다섯 | タソッ |
| ろく | むっつ | 육 | ユク | 여섯 | ヨソッ |
| しち | ななつ | 칠 | チル | 일곱 | イルゴプ |
| はち | やっつ | 팔 | パル | 여덟 | ヨドル |
| く | ここのつ | 구 | ク | 아홉 | アホプ |
| じゅう | (そ) | 십 | シプ | 열 | ヨル |
| じゅういち | × | 십일 | シビル | 열하나 | ヨラナ |
| じゅうに | × | 십이 | シビ | 열둘 | ヨルドゥル |
http://www.kanchoa.com/suusi/ さんよりお借りしました
だからと言って、日本語ネイティブとして困った記憶はない。無意識のうちに使い分けをしているのであろう。おそらく英語ネイティブも、言えなくて困ったことはないであろう。
追記:
ブックマークコメントで b:id:allezvous さんと b:id:ayu118 さんから「11番目の」は “undenary” ではないか、とのご指摘をいただきました。ありがとうございました。
ayu118 さんからご教示いただいたURLを、本文に転載させていただきます。
個人的には後者から、ラテン語から造語はできるものの、それを英語として受け入れるか否かネイティブにも迷いがあるように伺われ、大変興味深かったです(単語の前に ‘ * ’〔アスタリスク〕をつけるのは、言語学の論文や書籍でよく使われる表記で「この語は存在しない」または「標準的ではない」という意味)。
https://en.m.wiktionary.org/wiki/undenary
追記の追記:
あ、他の人からもいっぱい指摘が来ている…ありがとうございました(汗
