年末にNHK総合TVで三夜連続で放送された『岸辺露伴は動かない』というドラマを、とても面白く観た。
個人的感想としては第一話「富豪村」の、マナー警察とでも言うべき敵役との対決がスカッとして一番好きかな? だが断る*1、違った、だが今回の拙記事では、第二話「くしゃがら」をネタにさせてもらう。
主人公の 露伴 と同じマンガ家である 志士十五 という作中人物が、編集部から渡された「使用禁止用語集」という冊子の中から「くしゃがら」という謎の言葉を見つけ、最初くだらないと言いながらその意味を知りたいと調べ始めたところ、憑かれたようにだんだんと理性を失い錯乱してゆくというストーリーである。
いっぽう主人公や担当編集者である 泉京香 には、そのような現象は現れない。京香 に対しては「深入りすると危ない」と示唆する場面はあるが、ようするに反応する人間と反応しない人間がいるというところがキモである。
検索すると関連記事が多数ヒットするが、一件だけリンクを貼らせていただきたく。
「最後まで意味のわからない言葉」というテーマは、いつも人を惹きつけるものがある。『世にも奇妙な物語』の「ズンドコベロンチョ」以外に、私は星新一のショートショート『ミドンさん』や、筒井康隆の短編『マグロマル』を思い出した。きっと他にもあると思う。
なおこの中では『マグロマル』だけがコメディ仕立てで異色である。
唐突だが、米国次期大統領の話である。
新しめのニュースとしては、3日前のこれかな? ニューヨーク・ポスト紙というのは、ニューヨーク・タイムズ紙ともワシントン・ポスト紙とも関係のない、保守系タブロイド紙である。念のため。
トランプ氏支持の米ニューヨーク・ポスト紙、社説で「敗北を受け入れよ」 https://t.co/j4RzpLjNGi
— 産経ニュース (@Sankei_news) 2020年12月29日
同紙は1面にトランプ氏の写真と一緒に「大統領、狂気の沙汰を終わらせて」との見出しを掲げ、「暗黒の茶番劇に幕を下ろすときが来た」と訴えた。
時系列を遡ると、1週間前にはこんなニュースがあった。
ドミニオン社というのは米大統領選で使われた投票集計機のメーカーで、トランプ氏側からの「不正投票があった」というデマというか陰謀論の主な標的にされた。そんな証拠はなく、同社が反撃に出た形である。
一部、引用。
ドミニオンと同様に陰謀論の標的となっている投票技術企業スマートマティックは今月、ニュースマックスやワン・アメリカ・ニュース、FOXニュースに、簡単な調査で虚偽と分かる誤った名誉毀損の主張を広めているとして警告状を送付。その後ニュースマックスは21日にドミニオンやスマートマティックが票を操作したという証拠はないと釈明。FOXは先週、同局の司会者やゲストが行った主張のいくつかが誤っていることを示す映像を放映する展開となっている。
本家米国では、トランプ側に加担したメディアがボロボロと離脱している様子が見て取れる。
日本メディアでも、右派雑誌とされる月刊HANADAが12月21日発売の2021年2月号で"「陰謀論はなぜ拡散したのか」「フェイクの発信源は圧倒的にトランプ陣営側に集中していた」"と報じたことが、手のひら返しを行ったと話題になったり…
月刊Hanada
— ナょωレよ″丶)ょぅすレナ (@rna) 2020年12月20日
1月号「報じられない大規模不正疑惑の確信」「トランプ票三百四十万が盗まれた!」
2月号「陰謀論はなぜ拡散したのか」「フェイクの発信源は圧倒的にトランプ陣営側に集中していた」 pic.twitter.com/LEIh2WYGRq
それに先立って12月14日の選挙人投票後、産経新聞が次期大統領はバイデン氏であると報じたときには、ツイッター公式アカウントのリプとコメント付リツイートが、すごいことになった。
バイデン氏勝利確定 大統領選挙人が投票、トランプ氏対応焦点に https://t.co/Q1V9xSMf2h
— 産経ニュース (@Sankei_news) 2020年12月14日
トランプ大統領(共和党)が敗北を受け入れないことから、通常は形式的な手続きの選挙人投票が注目を集めた。結果を覆す策がほぼ尽きたトランプ氏の対応が焦点となる。
産経新聞社に関しては、社自体がトランプ大統領側の陰謀論に加担したという明確な根拠がないから、ここに並べるのは公平を逸するかも知れない。巻き添えを食らったというところだろう。
なんで本家米国はともかく、日本でトランプ勝利、バイデン不正の陰謀論に乗せられる人が多数いるのかは、いくつか考察記事が発表されているものの、私個人としては根っこのところはよくわからない。
しかし、こんどは逆に時系列を下っていくが…
11月3日の投票日以降、劣勢が伝えられるとトランプ陣営はいくつかの州で訴訟を起こしたが、結果を振り返るとそれらはことごとく退けられている。
12月14日の選挙人投票において、離反者が多く出るという予想がなされた。当然のように外れた。
今後のイベントとして、来年2021年の1月6日に上下院による次期大統領の指名がある。このときに上院で多数を占める共和党議員が一斉に反対してバイデン氏の指名がリセットされるであろうという予言がある。
んなわけがあるかい。選挙結果に異議申し立てを行うとされる議員は、いたとしても少数で大勢を覆すには数が足りない。
12月31日付の最新ニュースがあったのでリンクを。記事中にあるように、共和党執行部はとっくに選挙結果を受け入れ、離反者に警告まで発している。
さらに次のイベントとして、1月20日による正式就任がある。その際に何かするという予想もあるにはあるが、もはや荒唐無稽の類であろう。
「自己恩赦」に「自分の就任式」か…なんだか痛々しいレベルだよね。せめてもうちょっとヒロイックな振舞いをすればいいのに。虚像であっても。
その先というと、何があるだろう? 1892年の クリーブランド 以来の史上二度目となる返り咲きを目指して4年後の大統領選に再立候補? それだったら大いにやってくれとしか言いようがない。
こういうとき何が何でも節を曲げないという強固な信者もいるだろうけど少数で、イベントがあるたびに黙って去っていく層が多数派ではないだろうか?
そして陰謀論を振りかざしデマを拡散する残留者の数が減れば減るほど大声になるのとうらはらに、去っていったものは2020年大統領選に関する話題は自らの中で黒歴史として封印せざるを得なくなるのではないだろうか?
かくして「バイデン」という言葉は、ごく一部の人々の内部で「禁止用語」「口にしてはならない言葉」に昇華されるというわけだ。現実の バイデン 氏自身にとってはなんの責任もない、理不尽きわまる話ではあるが。
陰謀論に巻き込まれなかった人にとっては「なんだそれ?」ということになろうが、ちょうど「くしゃがら」が 志士十五 先生以外の作中人物にとって無意味であったことに相当しよう。
このような作用が発生しそうなケースは、米大統領選に限ったことではあるまい。例えば愛知県知事リコール騒動では、全署名の8割以上と言われる大量の不正疑惑が持ち上がっているが…
なにが「まるでバイデン」だ。
数多く指摘されているように、リコール署名の不正は地方自治法違反である。
すでに 高須 氏は署名集めの協力者を裏切者呼ばわりしているが、類似の内紛は不正署名の責任の所在をめぐって今後激しくなることが予想される。
つまりリコールに関わった者は、いつ自分が「敵」に認定されるかわからない、いつ地雷を踏むかわからない状態に置かれていると言えるだろう。その深刻さは トランプ 陣営の陰謀論に加担したケース以上かも知れない。
実際に地雷を踏み抜く人は少数であったとしても、一時期リコールに加担し黙って離脱していった人の多くの内部では、例えば「大村県知事」という人名は封印せざるを得ない言葉に転化するかも知れない。現実の バイデン 氏の場合と同様、現実の 大村 氏にとっては気の毒としかいいようのない話ではあるが。
そしてそのプロセスは、リコールとは無関係だった大多数の人にとっては理解の外であろう。
『岸辺露伴』に話を戻すと、こんな具合に発生した「使用禁止語」をまとめたら、じゅうぶん作中に登場したような薄い冊子を構成できそうな気がする。
最後にもう一度話題を変える。『岸辺露伴』の「くしゃがら」、『世にも奇妙な…』の「ズンドコベロンチョ」e.t.c. は、不気味といってもフィクションだ。
私が個人的にもっともゾッと感じるのは、十六世紀末にアメリカ大陸の入植地から115人もの入植者が忽然と消え、廃墟の柱に刻まれ残された「クロアトアン(CROATOAN)」という言葉を思い出すときである。本当に寒気がするのだ。真冬なのに。
この事件は今から半世紀ほども前に学習雑誌かなにかで知ったのだが、2020年の現在も新しいニュースが報道され、そして謎は謎のままである。
今回の拙記事の締めに持ってくるのは唐突かも知れないが、「謎の言葉」に加えて
- フィクションより現実の方が怖い
- 人がいなくなることが怖い
という2点で牽強付会しオチに持ってくるには十分じゃないかと思うのだが、いかがでしょうか?
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*1:主人公の決めゼリフです